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 門限にうるさい父の愛車の隣に駐車させ、一息つく。  こめかみを抑えながら車のドアに手をかけた。家に入ったら、まずお風呂に入って、それから……和也に返信しなきゃな……。  その時だった。  右斜め前方から、帽子を被った黒ずくめの男がこちらへ向かってきている。  周囲から雨音が消えた。聞こえてくるのは、トクントクンと波打つ心拍音。  この辺りは不審者の目撃情報が後をたたない。直近では、ナイフを持った人物が現れたらしい。 黒のジャンパーを羽織った男は、両手をズボンのポケットへ入れたまま近づいてくる。  カチカチと歯が音を立てる。ドアロックをしようにも氷付けにされたかのように腕が動かない。  男が窓に顔を近づけた。悲鳴すら絞り出せない。助けて……。
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