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0.バッドエンディング
グラスから溢れ落ちていく赤黒いブラッド。
格式高い大理石が染め上げられていく。
愛らしいルビーレッドの唇は弧を描いたまま永遠に形を崩しはしない。
薔薇に覆われた庭園で、物言わぬ女は愛する男の腕に抱かれていた。ガーネットのドレスは更に色を黒く陰らせていく。
ぽたりぽたりと、大理石に血が滲んだ。
男は失われた左の虚に、今抜き取ったばかりの宝石を埋め込む。
まるで最初から男の物であったかのように、はめ込まれた左目が青年へと向けられた。
「最初から、こうするつもりだったのか」
「どうだろうね」
自嘲気味に笑う男は愛しそうに腕に抱く少女の頭を撫でた。
二つ揃った赤紫色の瞳が妖艶と輝く。
存在しない筈の両魔眼。
一つの一族が繰り返した過ちによって、血を求め多くの生贄を出した存在するはずのない、存在してはいけない魔眼。
後一代で完成する「筈だった」魔眼。
「これで終わりで本当にいいのか」
男はそっと腕の女を抱きしめて頭を抱き、髪に口づける。
「さあ、行くといい。私の運命はもう君も知っている通りだ」
笑う男の口元から青年は眼をそらし、踵(きびす)を返した。
本人が一番見られたくないだろうから。
「気づいてくれてありがとう」
背にかけられた言葉に何も返さず屋敷を後にする。
この日、一つの悪がプラマール地方から姿を消した。
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