0.バッドエンディング

1/1
18人が本棚に入れています
本棚に追加
/228ページ

0.バッドエンディング

 グラスから溢れ落ちていく赤黒いブラッド。  格式高い大理石が染め上げられていく。  愛らしいルビーレッドの唇は弧を描いたまま永遠に形を崩しはしない。  薔薇に覆われた庭園で、物言わぬ女は愛する男の腕に抱かれていた。ガーネットのドレスは更に色を黒く陰らせていく。  ぽたりぽたりと、大理石に血が滲んだ。  男は失われた左の虚に、今抜き取ったばかりの宝石を埋め込む。  まるで最初から男の物であったかのように、はめ込まれた左目が青年へと向けられた。 「最初から、こうするつもりだったのか」 「どうだろうね」  自嘲気味に笑う男は愛しそうに腕に抱く少女の頭を撫でた。  二つ揃った赤紫色の瞳が妖艶と輝く。  存在しない筈の両魔眼。  一つの一族が繰り返した過ちによって、血を求め多くの生贄を出した存在するはずのない、存在してはいけない魔眼。  後一代で完成する「筈だった」魔眼。 「これで終わりで本当にいいのか」  男はそっと腕の女を抱きしめて頭を抱き、髪に口づける。 「さあ、行くといい。私の運命はもう君も知っている通りだ」  笑う男の口元から青年は眼をそらし、踵(きびす)を返した。  本人が一番見られたくないだろうから。 「気づいてくれてありがとう」  背にかけられた言葉に何も返さず屋敷を後にする。  この日、一つの悪がプラマール地方から姿を消した。
/228ページ

最初のコメントを投稿しよう!