3人が本棚に入れています
本棚に追加
/24ページ
時同じく。
「そんなんだから、だめなのよっ!」
学園の廊下から、甲高い声がしていた。
「あなた、狩る者としての自覚がないの?」
「いや……俺は巻き込まれて、つい、流されただけで」
「一度やったことくらい、最後まで貫きなさい!」
黒い髪の、衣服まで黒い男は、ツインテールの少女にたじたじだった。
「しかし……」
「叩いたものは叩ききれっていうのよ! あんた、トラウマ? 自分で切りつけて、それを自分から怖がってるんじゃ、狩りなんてやってけない。恥ずかしくない?」
「しかし……」
怒りが収まらない少女は、ぶん、と大剣を振り回した。
「そういう、やっぱ違ったわ、って引っ込めかた、武器に失礼なの! あなたのために犠牲になった時間は? 武器だって、使わなくて良いタイミングで傷をつけて、もうすこし、壊れるまではあったのにあなたが早めて……」
「武器に心などない」
「あぁん? もう一度言えや」
急に口調が変わったので、男がさらに緊張した顔になる。
「……だから、武器に」
「無い? でも、無いからって言い訳になる? そんな気持ちで刃を握るやつなんて、信じらんないわ! そのうち『はずみで殺した』とか言うわね、絶対よ!」
彼女は、目の前の男へとぴし、と指をさした。
時間というやつは決まっている。
それを大事にせず、判断した目の前の男――――なんと、純血を狩るための追跡途中であっさり引いてきたというのだ。
『相手は幼い少女で、可哀想だから』
それが、彼女には許せなかった。
敵というのは、情けをかけないもののはず……
戦うという立場にありながら、易々と同情するやつがいてたまるか。
「『家族がみんな死んでて……俺は知らなくて』
とか、言っていたわね」
男を追い払うようにして、腹立たしい気持ちで大剣を背負い直すと、先へと進む。
『知らないからやめた』なんて、どこの甘ちゃんだろう。
そんなこと、五万とある。相手が事情があろうと一度決めたのなら、狩る。
それが努めなのに。
「過ちだろうが、なんだろうが、運命は避けられない。どんな事情であれ、敵になったのなら敵なの……どうしてわからないのかしら」
最初のコメントを投稿しよう!