所詮彼女は小悪党

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「はーっ!? アンタなんか下男で充分よ、ってかなに話進めてんのよ雇わないわよ今すぐとっととここから出て行きなさい!」 「いいんですか!?」 「だからよくないって!」 「あの……ええと、とっても嬉しいです! これからよろしくお願いしますアランさん」 「前、が付いてはいるけど、その辺はうまいことこっちで誤魔化すから。お嬢さんにそのテのことで迷惑はかけないようにするから安心してくれ」 「なにひとつこれっぽちも安心できないんだけど!? っていうかアンタらアタシの話を聞きなさいっての!!」  ケリーの血管は最早切れそうだ。  だってそうだろう。王都でも老舗のエバンス商会。そこの主人は病人で、一人娘はこのポンコツっぷり。その財を狙う輩は無限にいる。そんな連中から娘を守り、財産を守ってきたのは他ならぬケリーだ。 「当たり前じゃないだってアタシの取り分が減る!!」  誰にともなくそう宣言し、守り続けること十年以上。  ケリーの過去を知る者がいればきっとこう言う――アイツは悪党になりきれない小悪党だからと。  結局の所人が良すぎるのだ。仲間達といた時こそ分け前だからと受け取ってはいたが、一人になってからは基本的に盗みはしていない。どうしても食い扶持に困った時に、裕福な身なりの人間から少し財布を拝借し、必要な分だけ頂戴して後は「落としましたよ」と親切面をして返していた。  そんなケリーが、むざむざと財産を食い潰されそうになっている年若い娘を見捨てるなどできるわけもなく、最終的にクレアを守る鉄壁のメイドとなってしまった。 「年若いっていうかもうあれ赤子よ赤子! どんな悪党だって目の前で赤ん坊が崖から落ちそうになってたら助けるでしょ!? それと同じ! 人として最低限のことをしてるだけなんだから!」  そんな言い訳も幾度となくしてきた、自分自身に。  他の誰にも言ったことはないのに、けれども突如湧いて出てた男には筒抜けの様で、クレアと会話しつつもケリーへと顔を向け、心底腹の立つ笑みを浮かべている。  コイツ絶対ぶっ潰す――!!  声に出来ない殺意を視線へ乗せ、ケリーは今ここに新たな戦いの幕が開けたのを痛感した。
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