所詮彼女は小悪党

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「こ、の、おばか!!」  今日も今日とてケリーの叫びが屋敷に木霊する。ひゃ、と小さく肩を竦めるのは彼女の主人であるクレアだ。とてもじゃないが主人に対する態度ではない。しかしこう叫ばずにはいられいない現状であるからして仕方がない。 「あんた本当にいいかげんにしなさいよ! この雨のなかどこほっつき歩いてるのかと思ってたのに、なによそれ! なんてもの拾ってきてんの!」 「だってですねケリーさん」 「だってじゃない! 今すぐ元いた場所に置いてきなさい!!」 「ひどい! いくら小雨だからって、ずっと外にいたんですよ! そんなことしたら風邪引いちゃうじゃないですか」 「風邪くらいでどうにかなるタマじゃないわよ!」 「でも」 「でもじゃなーい!!」 「わたしちゃんとお世話しますから!」  ブハ、と堪えきれない笑いがクレアの背後から起きる。くっそこいつ、とまるで親の仇でも見るかのようにケリーは鋭い視線を向けた。そこにいるのは犬、でもなければ猫でもなく、誰がどう見たって間違えようがないほどに立派な成人男性がクックと肩を揺らして立っている。  そう、このクレアお嬢様ときたら、よりにもよって成人した男を拾ってきてしまったのだ。  ありえない、とケリーは何度目になるか分からない呟きを漏らす。本当にありえない。一体どこの世界に雨に濡れたまま立ち尽くしている男を拾ってくる年若い娘がいるというのか。 ああいたわいた、アタシの目の前のこの馬鹿娘がいたわぁ、とケリーはこれまた何度目かの目眩に襲われる。  これである、クレアが馬鹿でないけれど、馬鹿だと断じたくなるのはこのあまりにも突拍子もない思考回路と無駄に突き抜けた行動力のせいだ。  犬猫鳥を筆頭に、迷っていた子供を連れ帰り老人を連れ帰りいずこからか逃げて来た子供連れの母親を連れ帰り、最終的には男を連れて帰ってきた。  これがまだ街にいる普通の男だとか、少しばかりガラが悪い男であればケリーも対処のしようはある。特にガラの悪い相手ならば得意中の得意だ。  しかし今回の相手はそうではない。いまだに名乗らず、素性も知れない男ではあるけれど、その一見優男風でありながら常に他者を射貫く様な視線を向け、こちらの内情を見透かすかの様な素振り――パッと脳裏に浮かんだ人物と、ひどく似ているのだこの男は。 「いやあ申し訳ない、俺としてもさすがにまずいだろうと何回か断りはしたんだが」  そちらのお嬢さんが、と男は今も愉快そうに笑みを浮かべる。無造作に伸びた前髪は鬱陶しいことこの上ないが、それでも彼の容姿が優れているのが伝わってくる。身なりさえ整えれば、きっと間違いなく相当な美形っぷりを見せつけてくるだろう。
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