所詮彼女は小悪党

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「風呂を借りた上に、新品の服までもらってしまっては何か礼の一つでもしないとかな?」 「お礼なんて気にしなくて大丈夫ですよ!」 「今すぐここからさっさと迅速に出て行くのが一番の礼になるわ」 「ケリーさん!」  だよなあ、と当の本人は笑っているのに対し、クレアは盛大に頬を膨らませてケリーに詰め寄る。 「それ以上顔膨らませると爆発するわよ」 「しません! それよりこの人はわたしの恩人なんですから、そんなに失礼なことばかり言わないでください!」 「なによ恩人って……アンタさてはまた道に迷ったわね!?」  クレアの反撃は秒も保たない。あっと言う間にケリーにバレてしまい、またしても肩を竦めてしまう。 「……道に迷ってた時にこの人に会って、それで、家まで案内してもら」 「ったわけねはいはい分かったわかりました……ってこのおばかーッ!!」  クレアどころか屋敷全体が震えるのではないか、という程のケリーの怒号が響き渡る。 「道に迷うにしたって限度ってもんがあるのよ! なんでアンタよりにもよって」 「刑務所の横の並木道で迷ってたんだろうなあ」  はは、と暢気な笑い声を上げる男が憎たらしいが、今はそれより目の前で小さくなっている小娘を叱る方がケリーにとっては重要だ。 「ただでさえアンタってばぼんやりしてていつ誘拐されたとしてもおかしくないっていうのに!」 「そこまで子どもじゃありません……」 「その辺にいる子どもの方がまだしっかりしてるわ!!」 「だよなー、あの辺り子どもだってロクに近付かないってのに」 「そうよ! そんな所にアンタって子はー!! もー!! 無事だったからよかったものの!」 「痛いいたいイタイですケリーさん頭グリグリするのやめてください!」 「しっかりお仕置きされときなお嬢さん。あのままうろついてたらヘンなのにとっ捕まって売り飛ばされてたかもしれないんだ」 「……いくらになるんでしょうかね?」 「アンタなんかよくて銅貨一枚、じゃなきゃ売れ残りに決まってるでしょ! 誰が買うのよこんなポンコツ娘!」 「ひどい!」 「なに!? 買われたいの!?」 「ケリーさんなら」 「お断りよ!」  ひあ、と異音が漏れる。ケリーとクレアのあまりにも低次元の会話に男の腹筋が崩壊したらしい。長身を折り曲げて小刻みに身体を揺らしている。
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