所詮彼女は小悪党

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 くっそ本当に腹が立つわねこの男! と、ついにケリーの忍耐も限界を向かえた。最後の情けで素性は隠したまま叩き出してやろうと思っていたけれど、当事者でありながら他人事の素振りにそんな【同族のよしみ】は吹き飛んだ。 「アンタね、この男が一体どういうヤツなのか分かってんの?」  え? とクレアが不思議そうに首を傾げるのを見、この子も一応毎日新聞は読んでいるはずなのにとケリーは溜め息をつく。まあ、読んでいたとしても、まさか大々的に新聞に載る様な人物と出くわすとは思っていないのだろう。 「アラン・ノートン、って言えば分かるわよね? ここ最近ずっと新聞の話題だったんだから」  アラン・ノートン――悪徳貴族を数百人規模で騙し上げ、金品どころか領地まで奪い没落させた稀代の詐欺師――  その詐欺師が、長年の刑期を終え出所するというのがここ最近の王都での話題だった。そしてその出所日がおそらく今日、と各新聞社は予測を立て、彼が服役していた刑務所を張っていたはず、なのだが。 「それを見事にすり抜けたのは流石ってとこかしらね? どうせまたそのよく回る口先で看守を誑かして裏口からでも出たんでしょうよ」  ケリーはアラン・ノートンの顔は知らない。新聞社もいくらなんでも顔までは載せていないのだから、事件に深く関わった者でなければ分からないのも当然だ。  なので物的証拠は何一つ無い。が、状況とケリーの勘がどうしたって告げてくるのだ、この男がそうなのだと。  そんなケリーの推測でしか無い発言に、男はシラを切ることもせず軽く肯定する。 「ご名答。おたくも流石だな、同業者だけのことはある」 「はあ? 失礼なこと言わないでくれる? こちとらエバンス商会の立派なメイドなんだけど?」 「アルウェッグ?」  グン、と周囲の空気が一気に冷える。男の口にした言葉はかつてケリーが加わっていた盗賊一味の通り名だ。こいつどうしてそれを、とケリーは表情こそ崩さないが、苛烈なまでの視線を向ける。  バチバチと火花さえ散りそうな一触即発の空気の中、「あ!」と何事か閃いたらしいクレアの声が響く。
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