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1,記憶
これは夢だ。神社の境内の様子をうかがいながら晃希は思った。すぐ横でしゃがんでいる圭志が飛び出そうとするのを手で制する。
すでに境内には姫子が捕まっている。牢屋番をしていた男の子があたりを見回した。周囲の熱気も神社の日陰ではずいぶんとましになっていたが、男の子は額に汗を浮かべている。
クヌギ林の陰からその様子をうかがっていた晃希は、両側から回り込んで姫子を助けようと圭志に指示を送る。圭志がうなずいて、身を低くしたままサッとクヌギ林から飛び出す。晃希も負けじと飛び出して、圭志と逆側から境内を目指す。
目に飛び込む木漏れ日の光や地面の感触に覚えがある。これは夢でなくて……記憶? 蝉の声が響き渡る神社をかけながら、晃希は不思議な感覚に陥りそうになるのを振り払う。周囲に目をやると圭志が牢屋番の男の子に追いかけられている。
逆に今がチャンスだ。姫子を解放しようと境内の方に一直線に向かう。そこに晃希をいったんやり過した後、物陰に潜んでいた白い手が伸びてきて、晃希の背中をタッチする。
驚いた晃希が立ち止まり振り返ると、白いシャツとデニムスカートの少女が満足そうな顔で立っている。
「晃希、捕まえた!」
晃希が目を開くとそこは無機質な天井が広がっている。目に入る蛍光灯の光がまぶしい。
……ここは?
先ほどまでの夢と混同して状況がいまいちつかめない。頭の奥の方で鈍痛がする。晃希が視線だけ動かすと清潔な白いカーテンやベッドの柵が目に入った。
どうやらここは病院らしい。
まだはっきりとしない意識の中で、ぼんやりとした声を聞く。なにやら周囲が慌ただしい。
「……意識……戻りました」「先生を……」「聞こえますか?」
どこまでが夢でどこからが現実かはっきりしない。看護師と思わしき声を遠くに聞きながら晃希の意識は再び遠のいていった。
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