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……ここでみんなで集まって。ドッヂボールなんかはこの通りでしていた。圭志と亀を探しに行ったのは神社の裏から降りていった川、かくれんぼや鬼ごっこは神社だ。
あの頃の情景を思い出しながら位置関係を確認していく。そういえば、入院中に夢で見たのも神社で遊んでいる姿だった。
あの神社は正式な名前は知らなかったが、地元の人からは「天神さん」と呼ばれていた。クヌギ林のおかげで夏でもわりと涼しく遊べたし、朝早くに行くとコクワガタなんかも捕れたので子どもの遊び場にはもってこいだった。
この場所からも歩いて五分もかからない。近所の様子を観察がてら神社の方角に向かって歩きはじめる。
少し奥まった細道を脇に入ると古い鳥居が見える。石でできた鳥居だ。そこをくぐると一気にまわりと空気感が変わる。クヌギ林が広がっているおかげでの冷気だとわかっているが、この鳥居を抜けた瞬間の非日常感が、晃希は好きだった。
鳥居を抜けて少し細い参道を歩くと、開けた場所がある。そこから五段ほどの短い石段を上った先に境内があった。子どものころと何一つ変わっていない。しかし、最近夢で見たからなのか、不思議と懐かしい感じはしない。
時間の流れを忘れてしまったかのような不思議な空間。周囲の喧騒もこの場所には届かいない。もう一か月もすれば蝉の声でうるさくなりそうだが、今はまだどこか恐ろしくなるほどの静寂を抱えていた。
晃希は境内へ続く石段に腰を下ろして、できる限り昔のことを思い出そうとする。どこまでが昔の記憶で、どこからが最近見た夢なのかは区別があいまいになっていたが、確かにあの少女はいた。
喫茶「ヒマワリ」のマスターの話のおかげで、入院中に見たいくつかの夢は鮮明に思い出せるようになった。
今、晃希が座っている石段を下りたあたりだ。夢の中とちょうど位置もあっている。
警ドロをしていて、境内で捕まっている姫子を助けるために圭志をおとりに突っ込もうとしたところに、後ろからタッチをされた。あの少女の「晃希、捕まえた!」の声も耳に残っている。
タッチをされた背中の感触や、振り返った時の少女の満面の笑みも思い出せる。やっぱりこれはただの夢ではなく、過去の記憶の一部だと晃希は思った。
……この場所で間違いなくあの女の子と会っている。
新たな発見があったわけではなかったが「天神さん」に来てよかったと晃希は思う。実際にこの神社に来て、夢の中の動きをトレースすることで、夢がただの夢ではなかったという確信を持つことができた。
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