転校生現る

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さらりと揺れる銀糸のような髪と、トパーズの瞳の垂れ目は甘い雰囲気を醸し出す。 学園の王子として有名な彼は、(たちばな)颯斗(はやと)という。彼の前ではチワワは言わずもがな、ムキムキなゴリまでも皆プリンセスになる。もちろん俺も。ということで周りに花を飛ばしてポッとしてみる。いやアホくさ。 にしてもこの爆イケくん、爽やかな甘さが売りだが今日はくたびれた大人感溢れる色気が漂っていた。ここにチワワがいたらきっと倒れていた。 元々持っていたノートの3分の2ほどは橘の腕の中にある。かなり楽になった。ここで半分こじゃないってところがモテの秘訣だろうか。プリンスのモテテク一覧にしたら売れそう。 鉛筆より重いものは持てないから大変助かった。中学と比べて運動不足の俺には急な筋肉の酷使は辛い。 「手伝うよ。どこまで運ぶ?」 「えっ? や、悪いよ」 「いいから、いいから」 急にエンカウントしたトンデモ美形にオドオドしている隙に、橘は階段を降り始めてしまう。こうなると食い下がる方が迷惑だろうか。 「ありがと。職員室までよろしく」 「わかった」 橘が笑うと白い歯が覗いた。っくぅ、爽やか! なんとなく隣を歩くことが憚られて、階段の一段後ろをついていく。つむじが見えそうで見えない高さ。 「てか橘、俺の名前知ってるんだ」 「え?」 「外部生だからあんまり顔覚えてもらえなくて」 「ああ、高一の頃から知ってたよ。水無瀬くんを迎えに来るときとか、綺麗な瞳の色だなって思ってたし、今も思ってる」 「ちゅきめろ〜!」 橘といると自己肯定感爆上がりしそう。急にバカみたいな語彙で叫んでも蔑まれることなく、微笑ましそうな表情をされるだけだ。……いやそれはそれで恥ずかしいから是非ともやめてほしい。悪いのは主に俺なんだけど。 「それに確か遠野くん、ランキングも結構上位だったでしょ。遠野くんに注目してる人、沢山いると思うよ」 あ、と思い出したように付け加えた橘だが、ちなみに俺の順位は、抱かれたいランキング22位、抱きたいランキング29位。 そうつまり、とても微妙。 すべて男からの票だと思うと萎えるが、ネタにできるか大声で自慢できるかどちらかにしてほしい。なんか居た堪れなくなる数字はやめてくれ。 しかしこの学園において、外部生である俺がランキングに乗るだけですごいので褒め称えて欲しい、拍手喝采、スタンディングオベーション、よろしく。何せ学年で九割は初等部からの持ち上がり組だ。外部生、しかも高等部からの俺はあまり顔を覚えられない。そしてぼっちになりがち。 「そうかな。……そういや、水無瀬って今日なんかあった? 先帰れって言われたんだけど」 橘もS組なので問いかけてみると、微妙に苦い顔になる。 ちなみにこの橘さん、抱かれたいランキング7位なのだとか。ラッキーセブン、さすがプリンス。 「えっと、お昼の騒動は見た?」 首を傾げてこちらを見つめる橘に、こくりと頷く。バッチリ見ました、学園を揺るがしそうな大恋愛の始まり。たぶん。 「水無瀬くんは佐倉くんと結構仲が良いんだよね。だからたぶん心配なんだと思うよ、大牙くんと一緒につきっきり」 「さくら……おおきば」 「佐倉(さくら)(ゆう)、例の転校生ね。大牙(おおきば)(じん)があの一匹狼くん」 「ああ!」 言われてみれば……、と思ってみてやめた。言われてみても新情報との邂逅でしかなかった。やあ、はじめまして。 「ツンしか存在しないことでお馴染みの水無瀬とクールヤンキーの一匹狼くんを虜にするとは、すごいな佐倉くん」 「はは、まあちょっと元気過ぎるのが考えものだけどね」 と、疲れの滲む顔をする橘。やはり疲労が垣間見える。会話の流れからして転校生絡みなんだろうな、と当たりをつけつつ、しかしそこまで踏み込んだ質問をするには交流が足りないと思うのでやめておく。ものすごくナチュラルに話しかけて手伝ってくれるから幼い頃からの仲良しだったかも……と錯覚しかけるが、数分前が初対面だった。プリンスすごい。
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