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「そういや、水無瀬のクラスに転校生来たんだろ」
「……噂になってんの?」
きちんと口の中のものを飲み込んでから話した彼に軽く頷いて肯定する。
おや、と思った。こういう話に食いつく水無瀬は珍しい。
「そりゃ、かなり中途半端な時期だろ。高二はじめの始業式から一、二週間経ってるし」
「あー……なんか家の事情だって」
「話したん?」
「……転校してくる前から交流あって。悪い奴じゃないよ」
と、緩く微笑む水無瀬。
……おや。びっくりだ、これはびっくり。驚いてスペキャ顔になったまま高速顎摩りが炸裂しそう。小学生以下の感想しか出てこないが、とりあえずかなり驚いている。小学生の頃にアゲハチョウが目と鼻の先にまで来たときよりインパクトがデカい。蝶って近くで見ると割とキモくて。
大親友水無瀬さんは基本何事にも冷めていて、俺のウザ絡みにも機嫌のいい日はノッてくれるが大抵は適当にあしらわれる。彼の笑顔なんぞスペシャルレア、某ポケットな生き物でいう伝説とか色違いとか夢特性並みのレア度。
その彼が、人のことを思い出しただけで微笑む、と。怪談話級だった。
見たこともない転校生にこっそり畏怖と尊敬の念を抱きつつ、うどんに七味を入れる。味変。
「ちなみにお顔とか」
「髪はアフロ一歩手前。プラスで瓶底眼鏡してて顔が見えない。鼻から下は割と見えるけど」
「おーすごい見た目、大丈夫そう?」
「クラスには結構すぐ馴染んでたし、役職持ちと必要以上に関わらなければ」
「そっか。良かっ……」
キャー、とか、うおー、とか。言葉を言い終わらない内に、耳をつんざく爆音。黄色いのと雄々しいのがなかなかのマーブル模様を生み出した。すごい。ソプラノ、アルト、テノール、バス、いい具合の混声四部合唱ができそう。
やたら高く中性的なチワワ達の黄色い悲鳴と、筋骨隆々の猛者たちの野太い雄叫び。
鼓膜に厳しいこの状況だが、国民的人気アイドルがキラキラシャラランファンサをしたわけでもなければ、超人気俳優がウインクを決めてハートを飛ばしたわけでもなかった。
いや、ある意味アイドルかもしれない。この学園限定の。
「相神様ー! 相変わらずとても麗しいです!!」
「真城様ーっ、今日もお美しいですーーっ!」
「っああ賀陽様ッ、色気がッ!」
「御影様ああっ、可愛いですーっ!」
「わ、淡海様っ、こちらに手を! 手を振ってくださってるうっ! 二人一緒に! 手を!」
そう。これ。
食堂の入り口付近から歩いて来た、ひとりも欠けずに揃っている生徒会メンバー御一行。その進行方向にいた生徒たちは何も言われずとも道を開ける。彼らが何故こんなに一般生徒から愛を叫ばれているのか。それは至って単純、スペックが高い奴はモテるから。
人間誰しも優秀な人間を好むだろう。その人のおこぼれを狙うバカやらステータスに興味のある玉の輿狙いの猛者やら。
顔と家柄その他諸々、スペックが高ければ高いほど、モテる。これがこの学園での常識だ。
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