出会いだらけの新歓

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「……うーん、風紀にでも掛け合ってみる?」 ゆっくり手を伸ばして、手の甲を猫の鼻先に近づける。匂いを嗅ぐような動作をしたので、そのまま顎を撫でてみた。逃げ出すほどでもないけど気持ち良くもない、とでもいうように微妙な顔をされる。ごめんて。 「お呼び?」 「うわっ!!」 突然現れたド美形にデカめの悲鳴を上げた。跳ね上がって、尻餅をついた所から上を見上げるとプラチナブロンドの髪が。陽の光を透かして風にそよぐそれに見惚れて、はあと息を吐く。 「久我先輩……! 驚かさないでくださいよ」 「ごめんごめん、つい」 明るく笑ってド美形こと久我先輩は俺の隣にしゃがみ込んだ。この人、急に登場しがちじゃない? もっと大声ではしゃぎながら自分の存在主張して歩いてくれていいけどな。 自己主張激しめの先輩を頭に浮かべてみていると、ふと黒い毛玉が久我先輩の足に擦り寄った。 「ん?」 ナァ、と黒猫が甘い声をあげる。 「……ふ」 え。恋人なんですか? と錯覚してしまいそうな甘い声と柔らかい笑み。顎を撫でられ、猫ちゃんはゴロゴロ喉を鳴らしている。 やたらと久我先輩にベタベタのデレデレな猫ちゃん。こやつやはり、面食い……! 「何、変な顔して」 「ジェラシーなんで」 「へぇ、猫に?」 「んやぁまあそうっすね」 実際は猫たんに懐かれている久我先輩に、だが茶目っ気たっぷりな笑顔を見せられたので、ノッておく。 と。可愛らしい笑みが、悪戯を企むような不敵な笑みに変わった。 「妬いてるんだ。へぇ?」 骨張った手が近づいてくる。 にゃっ、と鳴いて猫ちゃんは蝶を追いかけに行った。何それかわいい。 そちらに気を取られていたら、不意に、頬に柔い痛みが走る。 「ん、なに、」 「構って欲しいみたいだったから」 むい、と無遠慮に右頬を引っ張られる。普通に痛い。俺の頬肉は餅ではないのですが。 「やっぱできれば猫ちゃんに構って貰いたいんですけど」 「俺で満足することだな」 「先輩、もふもふとかけ離れてません?」 ええ、と少し不満を見せてみるが特に気にせず、先輩はちらりと黒猫に向き直った。 「おいで」 久我先輩がその子の鼻先にそっと手を差し出す。すんと指先の匂いを嗅いで、しかし猫さんは素通りしてその場で伸びをした。 美しい曲線だね、とその背のしなりに評論家じみたことを考える。 「……これが猫の気まぐれか」 「まさに」 肩を落として、先輩が少し居心地悪そうに自身の首元に触れた。 おいで、で来ないのが女王様っぽくて良い。とっても。そうだよな、お前が法律。 離れたところで毛繕いをする猫を、久我先輩が見つめている。触りたいけど触れない、みたいな。彼は少しじれったそうにむ、と少し目を細めた。 「っふふ」 「笑うなよ」 「だって先輩、なんかかわいい」 そう笑って、滑らかな肌に触れそのまま頬を抓ってやった。精悍な印象を抱かせる輪郭が少々間抜けな感じに歪む。 「仕返しです」 さっきの。と続けようとした言葉は、絡んだ視線の先の澄んだ瞳が妙に鋭く光ったのにたじろいで言えなかった。 「……なんだっけ。妬いてるんだったか」 ふと、彼の浮べた笑みはやけに優美で、思わず息を呑む。 とん、と肩に手を置かれた。余裕を醸す緩い笑みはその裏側を全て覆い隠してしまうからか、少し恐怖と似たものがあった。戸惑っていると、そのまま肩に置いた手に力が込もって、芝生の上に押し倒される。生垣に囲われて他の所は見えず、周りからも死角になっているだろう。 さら、と前髪を指が軽く掠める。頬に添えられた指が、顔の輪郭をなぞるように下りて、顎に触れる。そのまま顎を撫でられて、背筋が震えた。つつ、と喉を辿り指が下りていく。 「なら、もっと優しく丁寧に」 喉仏を通り過ぎ、ジャージの襟。ジジ、とゆっくりファスナーを下ろされ、鳩尾あたり、中途半端な位置で止まった。 今度は体操着の白いTシャツに手を入れられて、人差し指が鎖骨を辿る。触れるか触れないか。羽根でくすぐるように触れられて、思わず体を強張らせた。 「、っ何、せんぱ、ッん」 身を捩って離れようとすると、ぐい、と顎を掴まれた。力強く、それでいて手つきは優しく。眼前まで近づいてくる整った顔。 吐息が触れて、唇が擦れそうな距離。 耳に届くのは、甘い魅惑的な低音。 「溶けちゃうくらい甘やかして、可愛がってあげようか」
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