転校生現る

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「静かにしろ、風紀委員だ。全員落ち着け」 低く、しっとりとした声は甘さを湛え、しかし凛として清らか。 耳が孕んじゃう、で有名な声が窘めるような響きを持っている。プラチナブロンドの髪は緩く揺れ、煌めくアクアマリンの瞳は全てを射抜くように鋭い。 ……気づいたら俺の語彙、ポエムチックになっちゃってるよ。震えた。あの男の周辺には持てる語彙力すべてで褒め出すことが当たり前になる力が働いているのかもしれない。 そう、彼こそは、この学園の風紀を取り締まる風紀委員会の委員長、久我(くが)秋悠(あきひさ)さんだ。彼を前にすると、おっとこまえ〜、と口笛を吹きたくなるのが常。久我委員長は食堂の入り口から現れ、まっすぐに混乱の中心へと進んでいく。人垣がモーセの十戒よろしく割れ、背後には風紀委員が続いていた。 「一連の出来事は報告で把握している」 ふう、と艶っぽいため息。色気溢れる流し目にチワワが数人ぶっ倒れていた。「アッ……激しいっ」「キャッ……強引っ」「ンッ……もっとっ」お前ら仲良いな。 「今回は注意のみだが、エスカレートするようなら覚悟はしておけ」 「覚悟、ねぇ」 言いはせずとも、やれるもんなら。という煽りがダダ漏れだった。バッチバチ。 会長と風紀委員長の仲が壊滅的に悪いことは周知の事実で、二人が同じ空間にいるだけで不穏な空気が立ち込める。怖いね怖いね、俺はなるべく早くここから出たいかもね。 「……さ、見物は終わりだ。昼食をとった者から教室へ戻れ。もうすぐ授業が始まる」 切り替えた委員長が、さっとブレザーを翻し指示を出した。風紀委員がばらけて生徒たちを誘導し、少しずつ喧騒が戻ってくる。 水無瀬と一匹狼が転校生を促し、出口に向かっていく。生徒会役員も興が削がれたのか去っていった。え、水無瀬さん? ワオ、フィアンセがミーのこと置いてったヨ。アイツ今度絶対シメめてやる。キュッとしてやる……! 視界の端に、明るい色。 ばち、と。 アクアマリンに視線を捕まえられて、息を呑む。色素の薄い豊かな睫毛が肌に影を落としている。ゆるりと弧を描いた唇、不敵な笑み。極め付けの、緩やかな瞬き。 「ッ、かっっっっけぇ……!」 これに尽きた。 一生ついていきますぜ兄貴ィ!!
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