転校生現る

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「手伝うよ」 「いっ!? だッ、おっ……ッッ」 「はは、なんだって?」 「ビェッッッ」 気づけば、目と鼻の先に先程から俺が見つめていた美形。 「いいです大丈夫です恐れ多いです」と全力で首を振りたいのに吃ることしかできない。俺はそう、弱者だ。 水無瀬っちの座っていた椅子……つまり俺の隣に腰掛けた委員長にいたずらっ子の様な笑みを向けられて、思わず小さな悲鳴をあげる。っっもう、クソッ、下僕にしてください!! 「っ、しかしですね、誠に遺憾ながらこちらのプレート達はわたくしめの友人の遺品と言いますか」 「文脈語彙力その他諸々すごいことなってんね」 「風紀委員長様にパシリみたいなことさせるのはちょっと俺の心の中にある委員長ラブハート団扇に左足の小指引っ叩かれるというか……」 「逆に器用。ご丁寧にハートつけてあんの。ありがと」 「滅相もない……ッ感謝される義理など……!」 「楽しそうだね、それ実はおふざけだろ」 「あは、バレてら」 うふふと笑えば微妙な顔をされた。テンションがキモい。ひとつひとつにちゃんと反応してくれるのって嬉しいよ。きっとこれが幸せ。 「新しいフィアンセを見つけてしまった……」 「昔の恋人の痕跡を処理させるような奴はお断りで」 「もうダメだ、生きていけない」 「テンションキモいね」 「辛辣〜ッ」 でもそこに痺れる憧れるぅ!! そして周りからの視線が痛い。なんてったってこちらの風紀委員長は抱かれたいランキング2位。1位は会長。僅差でした、惜しかった。そんなどえらい人気者の男なので、俺が残念な顔だったら速攻、制裁決定だろう。制裁というのは俺にも詳しくはわからないシステムだ。ただ調子乗ったら親衛隊にバチボコに怒られる、というイメージだし、たぶん大まかには正解。 役職持ちなどのイケメンの多くには親衛隊という過激過ぎるファンクラブ的なものが作られており、対象のイケメンに近づき過ぎると「アンタ何様なのよ」「このブーーース!!」「イケメン様に近寄らないでちょうだいッ!」ドカーン待ったなし、みたいな。ここ男子校なのにね、お忘れなきよう。 しかし、ここで俺の顔面を思い出せ。そう、俺は平均より顔が良い。かなり良い。美形と美形が並んでるのは目の保養だということで、親衛隊の彼らも美形には比較的寛容だ。ちなみに俺に親衛隊はない。何故って? それまでの男だと言いたいんだろう、なんて無礼。正解だ。 親衛隊は対象に許可をとらなければ発足できないのだが、目の前にいる風紀委員長は親衛隊の結成を断ったらしい。何せ制裁やらで風紀を乱しがちなので風紀委員長がその原因となるのは避けたいのだそう。風紀委員の友達に聞いたのでこれは確実。 「そんなに見つめられると照れるな」 「貴方の瞳か青空か、どちらの方が澄んでいるのかを考えていました」 「ロマンチックだねぇ」 キリッとして言うと呆れたような笑みで返された。その笑顔、万病に効く。 「あと委員長呼びはやめてくれ。委員会は他にもあるだろ」 「あ。じゃああの、久我先輩……」 「ハイ、後輩」 「遠野朱羽と申します、どうぞお好きに」 「遠野ね。さ、行くぞ」 微笑みと共に言われてしまえば何が何でもついていきたい。全てを投げ打ってでもついていきたい。 立ち上がり、アホの水無瀬が置き去りにしていった食器を持つ。何でもないその一連の動作が大変スマート。 「先輩のそのイケメンオーラってどう分泌されてるんすか」 「分泌」 「やっぱ真似はできないのかな、100パー久我先輩由来でオーガニックな……」 脳直で放った言葉は意味不明だったようで首を傾げられた。当たり前だ、俺自身もイマイチわかってない。 さあな、と久我先輩が軽く首を振る。解れも乱れもない髪が素直に揺れて、光を受けて透けるプラチナブロンドに見惚れた。目が……ッ、目が弾けそう……! 「いやぁ好き……抱いて……」 「ごめん」 「間髪入れないクールな返答かっけぇす」 「自己完結の末に告白されちゃったからね。遠野って実は俺のファンなの?」 「それはもう数分前から」 「ヘイ新規さんいらっしゃい」 「ノリが解釈違い。ファンやめよ」 「刹那の夢だったか……」 久我先輩、結構とっつきやすい。
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