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抹茶ラテを渡す相手は、外で待っているのだろうか。
手紙をくれた恋人だろうか。
きっと綺麗な、彼と同年代の大人の女性だ。
どんなに欲しくても手に入らないものを持った人。
想像して顔が歪む。
する必要などないのに止まらない。
「どっちがいいかな?」
目が合った。
なぜか悪さを追求されているような気がして、すぐに視線から逃げた。
「私に聞かれましても」
「いつもホイップクリームを追加してるみたいなんだけど、それじゃ分からない?」
「どちらにでもカスタム出来ます。お連れ様にご確認を」
「そうしよう。大切な恋人にガッカリされたくないしね」
貴雪さんは殊更ゆったり、噛みしめるように告げた。
「それで、どっちが飲みたいの?」
つまり、ホイップクリームをのせた抹茶ラテを味わうのは、私だと言いたいらしい。名札は無駄な抵抗だった。
深いため息は聞かせるために吐いたのだと、彼なら察してくれるだろう。
「…貴雪さん」
「名札もないのによくご存知で」
笑ったときだけ目尻に皺がよるのが、彼のチャームポイントだ。姿勢も髪もストレートな彼に、唯一と言っていいほどの隙を作る。
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