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小林くんへの想いは、だれにも打ち明けたおぼえはなかった。自分の中だけで秘めていようと思った。
なのに、わたしが自分の恋心を自覚するのとほとんど時を同じくして、なぜか同じパートの先輩たちに筒抜け状態になっていたのだ。
その事実を知らされたときの、恥ずかしい気持ちが蘇る。
小林くんがいじられているのを、そばで笑って見ているだけだったはずのわたしまで、彼のいない場所で、ニヤニヤからかわれる餌食になったりした。
「牧野、あいつあんなんだしいろいろ大変だろうけど、小林の手綱しっかり握っときなよ~」
「そうそう、牧野と小林はニコイチなんだから。単に同じ楽器っていう意味だけじゃなくてね」
「自分の楽器を溺愛してますっていうポーズもいいけどさ、小林はあのとおり鈍いやつだし、そんなんじゃあ永遠に気持ち伝わらないまんまだよ」
そんな言葉をわたしに耳打ちして、半年前に一年上の先輩たちが卒業すると、小林くんをいじる人はいなくなった。
自分たちが最終学年になった今、低音パートの部室は静かだった。
大型楽器好きの後を継ぐ後輩たちには恵まれたものの、小林くんと同学年なのはわたしひとりだ。
そのわたしは、彼の冗談に乗ることはできても、彼がボケるための火種をうまく投下することができない。
小林くんはひとりでウケを狙おうとして、ときどきすべっている。
後輩に苦笑いされているのをかわいそうに思いつつ、その痛々しさとへこたれなさも、それはそれで、けっこう愛らしかったりするのだけれど。
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