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緊張感のない緊急事態
とにかく、ぼやぼやしてはいられない。
犯人の心当たりなんてあるはずもないのに、いたずらに気持ちだけが騒いだ。
爆破予告犯を探すなどという緊急事態は、わたしのような普通の中学生には荷が重い。ましてや手がかりらしい手がかりもないのだ。
こういうときは、情報を得るのが大事。となれば、まずは校内を聞き込みとか、そういうことから始めるべきだろうか。
だけど、校内は依然として文化祭ムード一色だ。
まだほとんどの生徒がこの大事件を耳に入れていない中で、爆破予告なんて荒唐無稽な話を、果たして何人に信じてもらえるだろう。
一瞬にして思考が駆け巡ったあとの脳裏に、ふと、となりのクラスの親友の顔が思い浮かんだ。
――そうだ、綾奈だ。綾奈なら。
わたしはもと来た階段を駆けのぼり、自分のクラスのひとつ手前の教室で足を止めた。
綾奈のクラスはコーラスを発表することになっているが、ちょうど休憩中なのか、教室からは歌声もピアノの音も聞こえてこなかった。
床に座り込んで談笑する制服姿の中に綾奈がいないか、中を覗いてみる。
すぐには見つからなくて教室内を見渡していると、後ろからやってきた綾奈に声をかけられた。
「あれっ、まっきーじゃん。どうしたの?」
トイレに行っていたらしく、濡れた手を小刻みに振り回している綾奈には、当然ながら緊張感の欠片もない。耳の下でゆるく編み込まれたセミロングの髪の束が、手の動きに合わせてぴょこぴょこ揺れている。
そのまま廊下の端に連れて行き、ひそひそ声で事情を説明する。
爆破予告というワードを出した途端、綾奈の顔色が変わった。
そうそう、予想どおりだ。パニック映画や刑事ドラマが好きな綾奈なら、絶対に食いついてくれると思っていた。
爛々と目を輝かせながらわたしの話を聞いた綾奈は、ひととおりの説明が終わると一転して、怪訝そうな顔を見せた。
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