文化祭を厭う者

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 本人不在の場所で出る話題なんて、だいたいが聞くに堪えないものと決まっている。  彼氏候補の品定めでもするように、「なに考えてんのかわかんない。陰キャ?」とか、「せっかく同じ部に男子がいてもあれじゃあねぇ」とか、そんな陰口に近い噂だった。  それらを耳にするたび、自分のことを言われているかのようにわたしの胸は痛んだ。  やがてショックが通り過ぎると、遅れて、彼女たちに対する憤りに苛まれた。  けれども、わたしは小林くんの彼女でもなければ、好きだということさえ公言していないのだ。  単に同じ低音パートのメンバーでしかないわたしが出て行って、彼女たちに文句を言うのはお門違いだということはわかっていた。  この気持ちをだれかと共有することもできず、心が荒れて仕方がなかった。  そんなときにかぎって、当の小林くんに「なんだよ、牧野。ご機嫌斜めかよ」と茶化されたりするのだから歯がゆくて仕方がない。  たまたまパートが同じじゃなかったから、あの子たちには小林くんのいいところが伝わらないんだ。そんなふうに自分に言い聞かせた。  しかしそれと同時に、 「じゃあわたしだって、もしも希望が叶ってフルートになっていたら、本当の小林くんを理解することはできなかったのか」 という問いが、出し抜けに、自分の内奥で頭をもたげた。
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