相棒は近くにいる

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相棒は近くにいる

 確証はないものの、金森くんと話した感触から、彼が爆破予告犯という線は消してもよさそうだと思えた。  振り出しに戻ったわたしは、涼しい秋の風が吹き抜ける中、校門前で立ち尽くしていた。  心強い味方だった綾奈は、今ごろは休憩時間も終わって、コーラスの練習を再開しているころだろう。ひとりで次の策を考えるしかない。ほかに手がかりはないだろうか。  急いで飛び出してきてしまったことを反省しつつ、状況を整理してみることにする。  今日のたぶん昼ごろ、おそらくうちの生徒が、「明日午前十時に学校を爆破する」という予告状を学校に出した。……うーん、あまりにも持っている情報が少なすぎる。  だけど、くやしいけれど金森くんの言うとおりだ。  文化祭が嫌な生徒がいたところで、爆破予告なんてまどろっこしいことせずに当日、自分だけ欠席してしまえばいいのだ。  ふと、吹奏楽部に入った直後、楽器の希望が通らず、嫌々部活に通っていた日々が思い起こされた。  不本意ながら自分の担当楽器として手にしたチューバは、形からして見るからに無骨で華がなかった。  フルートやクラリネット、トランペットなどのほかのおしゃれな楽器とは、悪い意味で一線を画している。  自分の楽器が嫌で嫌で、その現実を受け入れるのには時間がかかった。  こんなはずじゃなかったのに。やりたくもない楽器に甘んじるぐらいなら、部活なんて辞めてやる。  すぐに辞めたら、いかにも楽器の希望が叶わなかった()がままで辞めるみたいだから、ほとぼりが冷めたころにでも「勉強に集中したいから」とか、適当な理由をつけて退部届を出せばいい。  最初のうちは、寝ても覚めても幾度となく、そんな考えが頭を過ぎったほどだった。  チューバが欠けたことで部全体のバランスが崩れようが、ほかの部員が困ろうが、どうでもよかった。  この爆破予告事件が文化祭に不満を持つ生徒の犯行だったとして、それはチューバが嫌だった時代のわたしと同じことで、無責任だがバックレてしまえば済む話だ。
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