地味な手がかり

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地味な手がかり

 神崎さんが親指で指し示した先にあったのは、校門のとなりの塀に備え付けられた郵便受けだった。  いたって特徴が薄く、普段は取り立てて目に留めることもない、簡易的なポストだ。 「学校の郵便受けなんかどうして……あっ、もしかして犯行予告状がこの場所に!?」 「そうです、このポストに投函されたそうですね。爆破予告っていうから、てっきりネットの掲示板かなにかだと思ったんですけど、実際は手紙だったらしいじゃないですか。アナログですよね~。もっとも中学生の技術なんかじゃあ、IPアドレスとかですぐに足が付いちゃうから、意外と紙の方が堅実なのかもしれないですけど」  神崎さんは校門の外に身を乗り出すと、片手でカメラを器用に構えて、塀の向こう側に向かって口を開けた郵便受けを、何枚か撮影した。  続いて、敷地側に向いた回収口の写真も数枚。  授業時間中だからといって、付近にはだれもいないというのに、律儀に学校の敷地から一歩も出ないよう気を付けているのが微笑ましい。  一年なのに敬語もしっかりしてるし、案外、礼儀や規則を重んじるタイプなのかもしれない。 「そんなの撮ってどうすんの?」 「犯人が残した手がかりがないか確認の意味もありますけど……、記事に添える写真にするつもりです。絵解(えと)きは『予告状が投函されたとみられるポスト』といったところでしょうか。いいニュースにはいい飾りが必須ですから」 「郵便受けの写真が載っていたところで、あんまり目を引くとは思えないけど」  ケチをつけたみたいになってしまったわたしの言葉に、神崎さんは「そうなんですよね、苦肉の策ですよ」と存外素直に、空を仰いで言い捨てた。  爆破されるのにはまるで似つかわしくない、平凡な秋の青空が広がっている。
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