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用務員は見た
振り返ると、作業着に身を包んだ用務員のおじさんが、こちらに向かって大股で歩いてきていた。
「まったく、物騒ないたずらの手紙を入れていく小僧がいたかと思えば、今度は女子生徒かよ。回収して職員室に持っていくおれが責められるんだからな。勘弁してくれよ」
「あっ、あの、違います。わたしたちはたまたま通りかかっただけ……というわけでもないですけど、その、犯人ではなくて探偵の側でして……」
おじさんの剣幕に動揺するあまり、しどろもどろになる。
気付けば自分のことを探偵と言ってしまっている、わたしの言葉を遮るようにして、神崎さんが食ってかかった。
「おじさん、今、小僧って言いましたね? 見たんですか? 爆破予告状を入れた生徒を。男子生徒だったんですか? どんな人でした?」
「んー? あぁ、見たけどよ。どんなやつかと聞かれてもなぁ、普通に制服を着た小僧だったな」
答えてもらえないのではないかと思ったが、矢継ぎ早に質問する神崎さんの迫力に圧倒されたのか、おじさんは知っていることを隠さず、話してくれた。
これが、新聞部記者の取材力というものかと、わたしは思わず感心する。
情報を引き出すためのテクニックというより、押しの強さが物を言う世界のようだ。
「昼ごろに掃除の巡回でここを通ったら、郵便受けの回収口前でひとり立ち尽くしている小僧がいて、変だと思ったんだ。文化祭の準備日とはいえ、校門の方まで来る生徒なんて滅多にいないからな。
なんの気なしに見ていたら向こうもこっちに気が付いて、俺が見ている目の前で紙みたいなもんを郵便受けに入れやがったんだ」
「校内から投函していたんですね?」
「そうだ。すぐに声をかけたけど、あわてて逃げて行っちまった。ん? 逃げた方向? 校舎の方に走っていったな。
ごみくずでも突っ込んだのかと思ったら、爆破予告状だなんて冗談じゃねえよ。いたずらにしても質が悪ぃ」
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