重い楽器と、想い人と

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重い楽器と、想い人と

 だけど、淡い憧れから始まったわたしの吹奏楽に対する気持ちは、最初から順風満帆というわけではなかった。  入部した当初はフルートを希望していたのだけど、定員オーバーによる話し合いがこじれた末、催されたじゃんけんに負けた。  その結果、それまでの人生で名前を聞いたこともなかった、チューバという大型の金管楽器の担当になった。  重さが十キロ近くもあるチューバは、演奏席に座り、楽器を膝に抱えただけで演奏者が楽器の陰に隠れてしまう。  出せる音域は低く、手渡された楽譜を見ても単調なベース音ばかり。  入部前は、フルートを軽やかに奏でる自分しか想像していなかったので、曲のメロディに絡むことさえできない、脇役も同然な楽器を任されて運命を呪ったものだ。  だけど今ではその運命に、日々、感謝せずにはいられない。  そう、同じ学年でもうひとり、チューバを担当することになった小林くんのことが、気になり始めてからは。  男子部員の少ない吹奏楽部においても、小林くんは目立たない。  背が高いわけでもないし、体格も取り立てて良いわけではなく、大型楽器を担うには細身で、どこか頼りない。  さらっとした黒髪の下にさりげなく奥二重が並ぶ、普通の地味な男子だ。  楽器が決まった直後に顔を合わせても、最初はなんとも思わなかった。  むしろ、そのときのわたしは「チューバなんて最悪だよね~」と愚痴を言い合える仲の女子がほしかったのだ。  普段の彼は見た目どおりおとなしく、派手で気の強い女子が仕切っている全体練習のときは、一言も言葉を発することはない。  ただ自分の楽器に息を通して音を鳴らすことでしか、存在を主張しようとしないみたいだった。
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