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「学校閉鎖? 文化祭中止? そんな……」
どうか辻村さんの聞き間違いであってほしい、というわたしの祈りもむなしく、信じがたい現実が目の前に横たわっていた。
まるで自分が、爆破ものの演劇の舞台に立っているかのような錯覚に襲われる。
竜巻に家ごと吹き飛ばされたドロシーよりも、学校ごと木っ端みじんの方が、よっぽど悲劇的だ。
いや、それより最悪なのは、爆破予告がうそだった場合のことだ。
文化祭を中止にまでさせておいて、当日になっても爆発どころか、びくともしない学校。
そんな未来を想像してしまったわたしは、怒りと落胆を持て余した。
気の毒そうな顔のまっせんをよそに、なんの疑いもなく来ると信じ切っていた、かけがえのない日常の尊さに思いを馳せてみる。
最後のステージで、今日が永遠――そう心に刻みつけながら、彼のとなりでふたり並んでいつもの低音を響かせる。
コンクールでも定期演奏会でもない、ただの学内発表会。
音響の決して良いとはいえない体育館で、今まで何度も演奏を重ねてきたアップテンポの定番曲が鳴り響く。
音を作り出す吹奏楽団の大勢の隅で、ひっそりと大きな楽器に埋もれそうになりながら並ぶ、わたしと小林くん。
観客からは演奏の背景の、そのまた端のパーツでしかないけれど、そこにはたしかに幸せが存在している。
――それだけでよかった。なのに、まさか自分の学校が爆破予告されるなんて、だれが想像するだろう。
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