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「……何があったのかは、敢えて聞きませんけど。
俺ので良ければ、肩も胸も、いつでもいくらでもお貸出しします」
「っ、っっ……」
「だから、一人で泣くのだけはやめてください」
俺の言葉に箍が外れたように肩に顔を埋めて泣く先輩。
俺はその華奢な体を抱き締めたくて。でも、できなくて。
行き場の無い自分の両手を宙に浮かせながら拳を握りしめていると、きゅっと握り締められた制服の襟。
……先輩は、ずるい。
先輩は、俺が抱き締めたら絶対にすぐに離れようとするくせに。
自分からそうやって、俺に期待させるようなことをする。
決して、俺には靡いてくれないのに。
……なんて。
「……先輩」
「っ、……っっ」
それをわかっていながらも、こうやって都合良く利用されるために何も知らないフリをしている自分自身が、"良い後輩"を演じている自分自身が、一番ずるいのかもしれない。
「……ねぇ、先輩」
彼氏さんに、何か言われたんですか。
そう聞きたいのに。
俺なら泣かせたりなんかしない。
そう言いたいのに。
言ってしまったらもう、こんな曖昧な関係は終わってしまうと思ったら。
俺は何も言えない。言えるわけがない。
数秒の沈黙の後、ようやく口にした言葉。
「……今日、誕生日ですよね。おめでとうございます」
この言葉を、毎年一番に言える関係になりたかった。
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