105号室

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「うっわ!ボロ!」 「コノ!そういう事言っちゃダメだよ!」 「……だってさー、ボロ以外に表現しようがなくねー?」 「……まぁそうだけど……」  (まい)の目の前には廃墟かと疑われるような二階建ての木造アパートがある。実際このアパートは取り壊しが決定している。  だが、決定してはいるが決行されていない。予定では半年前に取り壊され、次の建物に生まれ変わっている頃なのに。 「それじゃあ、行ってくるので、梓、よろしくね」 「はい」  背後を振り返ると、8月の暑い最中だというのに黒色のスーツ、黒色のネクタイをきっちり締めた仁科梓(にしなあずさ)が頷いた。今は長い黒髪を後で束ねているが、それを下ろさなくても彼の性別は判断しずらい。  当に成人しているにも関わらずその顔立ちは、まだ少女のようなあどけなさと少年の幼さを合わせ持っていた。  今日は体型の分かるスリムなスーツなので男と識別出来るが、ユニセックスな格好でもしていれば男か女か迷うのは必至だろう。  舞はまた正面を向き直り、アパートの敷地へ足を踏み入れた。  敷地内はコンクリートブロックの壁で覆われている。まるで他者を排除するかのような印象の壁だ、実際それはアパートへの視線を遮断しているので、中で何が起きても通行人は気付かないだろう。 「暑いな……夜でよかったんじゃないのか?」 「良いわけないでしょ……」  胸の辺りに映画のタイトルロゴの入った白いティーシャツ姿のコノと呼ばれた青年は、暑いと言いながら額に浮かんだ汗を手の甲で拭った。  舞はそんなコノこと木葉丸(このはまる)をちらりと見て、人間みたいな事を言うと少々呆れてしまった。 「あんた、暑いのってどうにか出来るんじゃないの?ご自慢の神通力とかってやつで」 「あぁ?暑い位でわざわざ使うかよ、疲れる」 「あっそ」  セーラー服姿の木葉舞(このはまい)は現役女子高生だ。  だが、隣に立つ青年は外見こそ20代前半、大学生位に見えるが齢千年を超える鬼だ。名を木葉丸という。妖刀に憑きしあやかしだ。  二人は105号室の前に立った。  舞が木葉丸に視線を送れば、木葉丸は首を振った。  その意味は中から生者の反応はない、という事。それは留守を意味するのか、はたまた。 「鍵は借りてあるんだろ?」 「えぇ……」 「じゃあ、オレが開ける」 「……」 「オレがいいって言ってから入れよ、まずはオレが中を見てくる」 「……うん」  舞はスカートのポケットから預かっている105号室の鍵を手渡した。木葉丸はドアノブに鍵を差し込み、ドアを開けると「行ってくる」と、特に緊張した素振りも見せず中へと入っていった。
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