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「うっわ!ボロ!」
「コノ!そういう事言っちゃダメだよ!」
「……だってさー、ボロ以外に表現しようがなくねー?」
「……まぁそうだけど……」
舞の目の前には廃墟かと疑われるような二階建ての木造アパートがある。実際このアパートは取り壊しが決定している。
だが、決定してはいるが決行されていない。予定では半年前に取り壊され、次の建物に生まれ変わっている頃なのに。
「それじゃあ、行ってくるので、梓、よろしくね」
「はい」
背後を振り返ると、8月の暑い最中だというのに黒色のスーツ、黒色のネクタイをきっちり締めた仁科梓が頷いた。今は長い黒髪を後で束ねているが、それを下ろさなくても彼の性別は判断しずらい。
当に成人しているにも関わらずその顔立ちは、まだ少女のようなあどけなさと少年の幼さを合わせ持っていた。
今日は体型の分かるスリムなスーツなので男と識別出来るが、ユニセックスな格好でもしていれば男か女か迷うのは必至だろう。
舞はまた正面を向き直り、アパートの敷地へ足を踏み入れた。
敷地内はコンクリートブロックの壁で覆われている。まるで他者を排除するかのような印象の壁だ、実際それはアパートへの視線を遮断しているので、中で何が起きても通行人は気付かないだろう。
「暑いな……夜でよかったんじゃないのか?」
「良いわけないでしょ……」
胸の辺りに映画のタイトルロゴの入った白いティーシャツ姿のコノと呼ばれた青年は、暑いと言いながら額に浮かんだ汗を手の甲で拭った。
舞はそんなコノこと木葉丸をちらりと見て、人間みたいな事を言うと少々呆れてしまった。
「あんた、暑いのってどうにか出来るんじゃないの?ご自慢の神通力とかってやつで」
「あぁ?暑い位でわざわざ使うかよ、疲れる」
「あっそ」
セーラー服姿の木葉舞は現役女子高生だ。
だが、隣に立つ青年は外見こそ20代前半、大学生位に見えるが齢千年を超える鬼だ。名を木葉丸という。妖刀に憑きしあやかしだ。
二人は105号室の前に立った。
舞が木葉丸に視線を送れば、木葉丸は首を振った。
その意味は中から生者の反応はない、という事。それは留守を意味するのか、はたまた。
「鍵は借りてあるんだろ?」
「えぇ……」
「じゃあ、オレが開ける」
「……」
「オレがいいって言ってから入れよ、まずはオレが中を見てくる」
「……うん」
舞はスカートのポケットから預かっている105号室の鍵を手渡した。木葉丸はドアノブに鍵を差し込み、ドアを開けると「行ってくる」と、特に緊張した素振りも見せず中へと入っていった。
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