105号室

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 あるアパートの一室が呪われている。その呪いを解いてほしい。  そんな依頼を受けたのは先週の事。  舞の生家は遥か昔から続く祓い師の家だ。木葉の祓い師達は剣を用いて妖魔を祓っていた事もあり、代々剣術道場を営んでいた。むしろそっちの方が本筋のようになっていた。  今時剣術道場なんて流行らないかもしれないが、先代当主が時代劇や映画などの時代考証を担当するような歴史家だった事もあり、その伝で剣術指導なども担うようになった。  更に芸能関係者からのお祓いの依頼などを受けた際、現当主がスカウトされ何故か剣術を演舞のように取り入れたダンスボーカルグループとしてデビュー。それが当たってしまい、今ではファン達の入門や、ダイエット目的の若者やら主婦やらで木葉剣術道だけでも生活出来るようになったのだ。 ちなみにグループのメンバーは当主の木葉圭(このはけい)をリーダーに、全員が木葉分家で構成されている。  舞がこの件を聞いたのは依頼が来た翌日の事だった。 「舞ちゃん、週末お祓いを一件頼みたいの」  近所へお使いを頼むような気安さで、母の琴音(ことね)が言った。  琴音は元当主の娘ではあるが、祓い師としての仕事はしておらず専ら事務や経理などの裏方を担当している。道場経営も彼女の手腕によるものが大きい。 夫である舞の父は入り婿で、祓い師とも道場とも関係のないサラリーマンだ。今は単身赴任で海外に赴いている。 「どこまでいくの?」 「遠くないわよ、県内だから……梓ちゃんが車を出してくれるから木葉丸くんと行ってきてね」  おっとりとした性格そのままの喋り方で言うので、緊張感は伝わって来ないが「お祓い」と言う位なので、怨霊か妖怪の類だろう。 「いいけど、どんな依頼なの?それ」 「えーとね、古いアパートの開かずの部屋の呪い?みたいな感じかな~」 「……は?」 「詳しい事は梓ちゃんに伝えておくから、聞いておいて頂戴ね、今みんなツアー中でしょ、舞ちゃんにしか頼めないのよぉ……」 「別にいいけど……ちょっと面倒なら……」 「分かってますよ、お小遣い上乗せしておくわね」 「やった!」  舞は高校生なので滅多な事では祓い師としての仕事はしていない。学校関係だったり、学生の立場が必要な場合は出向くが、大抵は梓や木葉丸か分家の誰かが仕事を請け負っている。  だが、木葉本家、分家の中でも一番の霊力を持っているのは舞である。現当主である兄よりも、元当主である祖父よりもだ。だから、仕事の内容によっては舞に頼らざるを得ない事もある。 しかし、それを当主の兄も母も誰も歓迎しないので、なるべくは舞以外の誰かが担当するようにしていた。 今回の件は早急に片さなければいけないのと、人手不足が重なり舞への依頼となっていた。 「すぐ終わりそうなやつ?」 「依頼自体は呪いらしいからすぐ祓えると思うわよ、土曜日だし早く終わったらお買い物でもしてきたら?」 「そうだね、そうしよ~」  この時まで舞もあんなに面倒な事になるとは思っていなかった。
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