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二人はイルミネーションが観れる場所へと移動する。
手袋の無い手が冷たくて、乃依は両手をすり合わせながら息を吹きかけていた。
「あ、悪い。俺、ほんまに気が利かんのよ。こんな寒いのにアスレチックなんか」
栄ちゃんは乃依の左手を掴むと、そのまま自分のダウンのポケットに突っ込んだ。
えっ?!
乃依は驚いたけれど、振り解くこともできず、そのまま歩く。
手を取られているせいで、今までよりぐんと距離が近い。
左手はすぐ暖まり、その熱が体中を回って右手にまで伝わるのを感じる。
「お好み焼き、好きになった?」
どう答えるのが正解なんだろう。
そんなのイエスに決まっているけれど、乃依は素直にそう言えなかった。
イエスと言えば、それはもう栄ちゃんと会う理由が無くなるということだ。
乃依の様子に何を思ったか、栄ちゃんはフッと苦笑する。
「やっぱりの。俺、ズレとんよ。女の子連れてくんならお好み焼きじゃのうて、オシャレなカフェとかレストランとか、そういうんじゃろ? 今までも結構それで振られとるんよ」
違う。そうじゃない。
乃依は首を振る。
「でも、乃依がすごい喜んでお好み焼き食べてくれるけえ、つい嬉しゅうなって」
違うよ、栄ちゃん。
私は本当に楽しかった、楽しかったの!
周りでカウントダウンが始まる。
10、9……
「今日で最後かもしれんけど、俺……」
3、2、1……
「0」に合わせて叫んだ乃依の声に、栄ちゃんの声が重なった。
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