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「一万人目の入場者は、このカップルでした!」
「おめでとうございます!」
「おめでとう!」
周りから祝福の声が飛ぶ。
え? カップル??
乃依は顔を上げて自分が手を掴んでいる相手を見ると、同年代ぐらいの男の人が迷惑そうにこっちを見ていた。
「うわー、栄太郎、カップルになってやんの」
「可愛い彼女じゃのぉ」
一緒に来場したらしい友達に囃し立てられて、栄太郎と呼ばれた彼はますます機嫌が悪くなる。
「うっせぇよ」
友達に一言返した彼は、乃依のことをジロッと見た。
「早ぉ手ぇ放せぇや」
「ご、ごめんなさい」
乃依は無意識に掴んでいた腕を慌てて放す。
「おめでとうございます。これはこの会場で使えるクーポンです。レイと冠をつけていれば他にもいろいろ優待を受けれますので」
二人の微妙な空気に気づきもしない担当者が、ただでさえマフラーでモコモコな乃依の首にレイをかけクーポンを押し付け、彼の頭には冠を載せる。
「す、すみません、あの、私たちカップルじゃなくて……」
乃依は担当者に説明しようとするけれど、まごついてうまくいかない。
「もう、面倒くせえ。こんなもん、お前一人にやる……」
冠を外しながらそう言った彼の目が乃依の手元で止まり、彼はまた冠をかぶり直した。
「イエーイ、俺たち、ラッキーカップルでーす」
彼はさっきまでとは対称的なハイテンションで肩を組んできて、ピースで友人たちの記念撮影に応じる。
乃依はもう何が何だかわからず、ひたすら固まっていた。
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