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入口付近の民芸品や野菜などのコーナーを抜けて、乃依はやっと手を繋いでいることに気づき、慌ててそれを振り払う。
栄ちゃんは気にも留めない様子で、周りの店を物色していた。
乃依はふと、八朔大福の店舗を見つける。
「あ、あの、栄ちゃん」
袖を引っ張って先を行く彼を止める。
「おっ、八朔大福じゃん。懐かしー」
「え? 知っとるんですか?」
「知っとる知っとる。俺、尾道におったことあるけえ。まぁ食いもん好きじゃけ、広島中のうまいもんは大概知っとるよ。何? ノイ、これ買うん?」
頷いた乃依は、姉に頼まれた五個を注文する。
レイと冠のおかげか一つおまけをもらい、千円以下の端数をまけてもらって、支払いもクーポン一枚ですんだ。
「食べます?」
「敬語はええよ、一応カップルなんじゃけ。それ半分こしよ」
手袋を外して包を開け、どう半分にしようか迷っていると、栄ちゃんは乃依の手を持ってそれにカプッと食いついた。
「うん、うめえ。あとはどうぞ」
「どうぞって……」
「ん?」
栄ちゃんは何も気にしない様子だ。
もう、初対面相手に勝手なんだから。
乃依は残った八朔大福を半分にちぎって、その片方を栄ちゃんの口に押し込む。
「なにふんだよ」
乃依はそんな栄ちゃんを一瞥すると、残った大福を頬張った。
うわあ。こんなに美味しかったっけ?
不思議と今ならお姉ちゃんがここまで買いに来させたのにも納得できる。
噛むと口の中で溢れ出る八朔の果汁。
その甘酸っぱさと餡の絡み具合が絶妙で、後味もすっきり、何個でも食べられそうだ。
「うまいよな」
そんな乃依を見ていた栄ちゃんの眼差しが思いのほか優しくて、乃依は何だかびっくりする。
栄ちゃんはまた左右に並ぶ店を楽しそうに見ながら歩き始めた。
意外と優しい人なのかな。
乃依は栄ちゃんの後ろを歩きながら、そんなことを思っていた。
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