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「ごめん、俺、気が利かんのよ。食いもんのことしか頭にのうて」
栄ちゃんが申し訳なさそうに頭を下げる。
「別にいいんよ。楽しかったけん。それに、本当に食べ物が好きなんだなってわかるし」
これは嘘ではなかった。真冬の外出が嫌だったはずなのに、今は何だか楽しい。
栄ちゃんの表情がくるくる変わるのも面白いし。
「クーポンも後一枚じゃけ、何か食ったら帰ろうな。牡蠣汁、あっちに鍋もあったかな。あとお好み焼き、どれにする?」
ちょうど目の前でお好み焼きが焼かれていた。
薄く伸ばした生地の上に、たっぷりのキャベツ、一番上に豚バラ肉を載せて、ヘラでひっくり返す。
豚バラ肉が下に来て火が入り、一番上に来た薄く焼けた生地が蓋となって野菜が蒸される。
その横で麺を炒め、さっきのかたまりを麺の上に載せる。
最後に卵を割って丸く伸ばし、その上に麺ごと移動させて、再度ヘラでひっくり返し、ソースや青のりなどをかければお好み焼きの完成だ。
広島ではよく見るお好み焼きを焼く工程。
別に嫌いなわけではないけれど、乃依は好んで食べようとは思わなかった。
店ごとに味が違う、なんて言うけれど、おなじみの『お好みソース』をかけてしまえば味も全部同じに思える。
栄ちゃんに気を許していた乃依はそれを素直に伝えてしまい、ものすごい非難を浴びた。
「はあ?! ノイ、それは広島県民にあらず! お好み焼きの奥深さを知らんだけじゃって」
牡蠣汁を食べながら、何だかずっと説教されている。
こんなにお好み焼き信者だったとは。
「三日、いや、二日俺にくれ! お好み焼きの素晴らしさを教えちゃる」
「二十三年間、広島で生きてきて出した結論なんよ? そんな、たかだか二日で……」
「いや、絶対に好きにならせてみせる!」
そんなこんなで、次の週末にまた会うことになってしまった。
あれ? またデート?
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