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「ここから先にはアルファの方は入れませんから」
和美を送っていくと、コテージの入口で山形が待ち構えていた。
「随分だな」
荒城は文句を言おうとしたのに、和美はさも当たり前のように山形の腕にしがみついていく。
「ごめんなさい、山形さん」
甘える子犬のように和美が山形に、すがるのを見て、荒城は舌打ちしそうになった。
「バイト先のマスターには連絡を入れておきましたから、今日はおやすみですからね」
山形が、そう言って和美を奥に入れる。荒城の手から和美の服が入った紙袋を受け取りながら、山形が言った。
「GPSが、付いてますからね」
それを聞いて納得した。だから話を端折って言ってきたのか。和美がホテルにいて、ヒートを起こしていれば、なにが起きているのか理解ができるというわけだ。
「それと、オメガ保護法がありますから、そう簡単にことが進むと思わないでくださいね」
そう言って、山形は荒城に名刺を渡してきた。
「どういうつもりだ?」
名刺を受け取りながら、荒城は片眉を上げた。
「荒城さんですよね?和美くんのバイト先の近くのタワーマンションに、事務所を構えている」
「ああ、そうだよ」
こちらがしていることは、そちらもしているということらしい。公務員の癖によくやるものだ。
「既にご存知だとは思いますが、和美くんはこのコテージの預かりですから」
荒城は返事をしないでやっぱりに背を向けた。渡された名刺はそのまま胸のポケットにしまい込む。
荒城が出ると、扉に施錠される音がした。部外者は立ち入れないような、厳重な警戒だ。
ここにいれば、和美は安全に暮らせるのだろう。だが、荒城にとって和美は唯一なのだ。
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