序、

1/1
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ

序、

「約束だ。必ず乗り越えて、幸せになろう…セン」 「あぁ…絶対だ、寅松」 俺達は生まれ育った小さな村を離れ 男同士の婚姻を認められる唯一の町…都へと逃げた。 幼馴染みで恋人の寅松は、容姿こそ中性的だがその性格はいつも前向きで男らしく 冴えない俺を誰よりも深く愛してくれる、唯一無二の存在。 しかし、親は俺達の関係を良しとせず やれ見合いだの、やれ子作りだのとそればかり。 煩わしく、堅苦しい村の縛りに耐えかねた末 まだ夜も明けきらぬ薄闇の中、息を潜めて生まれ育ったこの家を抜け出したのだった。 家族と離れるには相当な勇気と覚悟が必要だ。 ともすれば、縁を切られかねない身勝手な行動に怖気づき、涙ぐむ俺を 「大丈夫。いつか俺たちの努力を認めてもらえる日がきっと来る」 そう言って、小刻みに震える冷たい手で 肩を抱いてくれた。 前を向いたまま 拭う事もせず、漆黒の瞳を潤して。 …それが、寅松の涙を見た最後であった。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!