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じっちゃんは受けっとたスケッチブックに何か力強く描き足していく。
「敵をやっつけるんやろ。こんなんじゃあかんわ。魂が入っとらん。こうやろ。こうやって。こうやって、こうやって……」
「あのー……」
「消しゴム」
「う、うん」
わいは、消しゴムをじっちゃんに渡した。
嫌な予感しかしなかった。
「赤い服か。武田軍の赤備え。いや、走ってジャンプする機敏な動き。忍者のように火の玉も出すとなると、真田の赤備えがええんちゃうかな。そうか!! 分かった、火の玉って火縄銃や。そんで真田丸で鹿のツノの生えたカブトをかぶって、最後に魂の刀を持てば……ほれっ」
そこにはマリオの欠片もない、立派な赤い鎧武者が立っていた。刀を構えている。鹿の角が生えたカブトが立派で微妙に格好いい。だけど顔はやっぱり青白いシャガールで。何やねんコレ?
あああーーー、わいのマリオが、マリオがどこか遠くへ消えて行く〜。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「あのー、何か言って」
じっちゃんが見つめてきた。
「……誰、これ?」
「えっ?」
「知らん」
「……………………………………」
「……攻撃こそ最大の防御なり。と、ちょっと攻めてみたけど。攻めすぎか」
「マリオやで。イタリア人やで。……知らんけど」
わいは悲痛な声で訴えた。
「よし、真田十勇姿っぽく忍術も使おう」
そう言うと、じっちゃんはまた何かを描き始めた。
「どうでも、ええから早く食べ終わり」
母ちゃんが、わいのお椀に残っている野菜を見て言ってきた。
「ほら、もう冷めてもうたやんか。お鍋はあったかいうちに食べんと」
「……」
「片付けるから、まずはご馳走様して」
「……うん」
わいはお椀に残った人参、ゴボウ、春菊、椎茸を見た。
人参とゴボウをパクパクって食べて、残った春菊と椎茸をそーっと鍋に戻す。
「コラッ」
母ちゃんに見つかり怒られた。
「えーー」
「えーーやないでしょ。ちゃんと食べ。ほら、さっきキノコを食べてパワーアップとか言ってたでしょ」
「それはスーパーマリオの話や」
「スーパーかハイパーか知らんけど、とにかく食べや。片付けるから」
「食べたら買ってくれる?」
「スーパーマリオのこと?」
「これやで」と言ってじっちゃんがスケッチブックを見せてきた。そこには鎧武者が十体に増えた軍団が描かれていた。
「だいぶスーパーになったやろ」と満足そうなじっちゃん。
「これ?」と母ちゃんが素っ頓狂な声をあげる。
「ちゃう」
わいは泣きそうな目で母ちゃんを見た。
フーと、一呼吸置いてから母ちゃんが「テレビゲームの話でしょ」と言ってきた。
「知ってるん?」
「まあ、ね。そんな事より、早よ食べ早よ」
「食べたら買ってくれる?」
「それはそれ、これはこれ。関係ない。だけど、話は聞いてあげる」
わいは、マリオの片鱗もない鎧武者軍団の絵を見て、ゴクリと唾を飲み込んだ。このままやったら、いつまでもスーパーマリオに辿りつかへん。ここはしゃあない、頑張って食べよう。わいは鼻を摘んで春菊を食べた。
先に食べ終わって向こうに行っていた姉ちゃんがリビングにやって来た。
「スーパーマリオってこんなんでしょ」
と言って、スケッチブックにサラサライラストを描き始めた。
「オッ、オッ、オッ」
漫画描いたりする姉ちゃんがマリオを描いていく。
コレやコレ。行ける、行けるで似て来た。
たぶん、結構ちゃうんやけど、今までマリオの片鱗を見てなかったわいには、姉ちゃんのイラストがごっつい上手く見えたんや。
マリオが出来上がっていく。うん、うん。
でも、あれ? でも、なんか違和感が……
こうして、何かが違う「第3回マリオってどんな奴や大会」が開催されることとなった。
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