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わいの名前は 涼石 夏生。
これは、あの頃(小学1年生)を思い出しての話。
ちょっと? 結構? 昔の話。
: : :
ガーーン!! ガーーン!! ガーーン!!
その日、わ、わいは人生最大の衝撃を受けた。
まだ、小学1年生やけど……
12月に入り外で遊ぶのが寒いその日、学校が終わった わいは、親友「ゆたやん」の家に遊びに行ってたんや。そして、ゆたやんのお兄ちゃんが持っていたファミコンを初めてやらせてもらった。
そしてそして、遊んだゲームは、その名も「スーパーマリオブラザーズ」。
チャラチャッチャラッチャ♪ チャ♪
赤い帽子のヒゲのおっちゃんが、走ってジャンプして、泳いで、火の玉出して。キノコを踏んづけたと思ったら、キノコを食べてパワーアップして…… おおー、おおおーー、おおおおおおーーーー。なんやねんこのゲーム。
極め付けは、土管の中に入ったらワープしたで。地下に行ったり、海に行ったり、違う場所行ったり、だから、なんでやねん。なんで土管でワープすんねん。
なんでやねん。なんでやねん。なんでやねん。
ほぇー……
そして、むっちゃおもろいやん。
訳わからんけど。
興奮冷めやらぬ、その日の晩。
スーパーマリオが忘れられへんかったわいは、晩ご飯の時にみんなに思い切って言ってみたんや。
「今度のクリスマス。マリオが欲しい。ねえ、お願いや。マリオ買って〜」
じっちゃんが、食後のお茶を飲みながら「マリオって何や?」って聞いてきた。
「赤い服着た、おっきな帽子かぶった、ヒゲの生えたおっちゃんや」
「おっちゃん?」
「走って、ジャンプすんねん」
「おっちゃんが?」
「そうや。すごいねんで」
「その、マリオっちゅう おっちゃんがか?」
「それに海の中もいけんねんで」
じっちゃんは湯飲みを置いて腕を組んだ。
「……じっちゃんも、走って、ジャンプするし、海の中も行けんで」
「……」
「……」
わいは、ひとまず残りのご飯を口に放りこんで考えた。
「えーっと、あと、火の玉も出して敵やっつけるし、キノコ食べてパワーアップすんねんで。すごいやろ」
じっちゃんは、もう一度湯飲みを持つと残りのお茶を飲み干して考え込んだ。
「火の玉か? 火の玉は出せんな。けど、敵が出てきたら木刀でやっつけるし。じっちゃんは、ニンニクでパワーアップすんで」
力瘤を作って見せつけてくるじっちゃん。
「……」
「スーパーじっちゃん」
「……」
……いや。ちょっと、ちゃう。そうじゃないんや。
「……」
「……」
父ちゃんが「イタリア人か?」と聞いてきた。
「? 知らん」
「たしかニースで、ソッカ売りのおっちゃんはマリオっていう名前やったな。イタリアから来たって言ってた。イタリアから来たソッカ売りのおっちゃん」
「知らんがな。だから、何人かどうかなんてどうでもええねん」
「ソッカ、ソッカ……ソッカ売りのおっちゃんはマリオか、ソッカ。……クククッ」
「……」
わい、小学1年生やけど、なんか変な空気が流れたのは分かったで……
「でも、たぶんイタリヤ人やと思うけどなー」
と父ちゃんがしつこく言ってくる。
「だから、何人かはどうでもええって」
「じゃ、どんなおっちゃんやねん。マリオって」
「それは……だから、赤い帽子かぶって、髭の生えた、おっちゃんで。走って、ジャンプして……」
「待て待て、ちょっと色鉛筆とスケッチブック持ってきてみ」
こうして、「第1回マリオってどんな奴や大会」が始まった。
父ちゃんが赤い鉛筆を持って、サラサラとスケッチブックに何か書き始める。
「赤い帽子やろ。服も赤いねんな。ヒゲが生えて。ほんでイタリア人のマリオっと……」
「走って、ジャンプすんねんで」
「じゃあ、太ってないねんな。スポーツマンや……」
「泳ぐのも得意やで」
「……いや、ニースのマリオも泳ぐの得意やったけど太っとたな。という事は太ってる可能性もあるか……」
それから、ブツブツなんか呟きながら父ちゃんは絵を描いていった。
「分かった!! 分かったで夏生!!!」
父ちゃんが一気に筆を、じゃなくて色鉛筆を走らせる。
「できた!!」
そう言って見せてくれたスケッチブックには、赤い服に赤い帽子、白いヒゲがフサフサ、丸いお腹で白い袋を担いだ、おじさんと言うよりおじいさん。つまりそれは……
「サンタさんやん、それ」
わいは声を裏返して言った。
「だって、夏生のいう通り描いてったらこうなったんやもん♪」
そう言いながら、スケッチブックに再び何かを書き始めた父ちゃん。
「『やもん♪』ちゃうわ」とわいは呆れた。
「そんで、こっちはニースのマリオや」
再び見せてくれたスケッチブックには、サンタさんと同じ体型をしてコック帽をかぶった中年のおっちゃんが描かれていた。黄土色の三角形をした、ピザのようなもんを持って「ボーノ♪」とニコニコ笑いながら言っている。
「そんで、これがソッカちゅう食べもんや」
「……あっそ」
悲しくなってきた。
「なあ、ちゃんと描いて」
「ちゃんと描いてるやん。これが本物のマリオやで」
「そうじゃなくて、まず帽子は、こんな帽子じゃなくて、こう前に野球帽のような、こういうの(つば)がついてて。ひげは口の上だけ。じっちゃんちゃうから、白ヒゲじゃなくて、ほんで、もっと動ける格好や」
それからも、いろいろ細かく伝えていく。
「ジーパンみたいなズボンで、胸まであるやつ。ほんで、白い手袋してんねん」
父ちゃんは、フン、フン言いながら描いて言った。
そうして出来上がったマリオは……
ヒョロっと細長い、まるでモデルのような体型の、そしてやっぱりこれ誰って? っていうマリオだった。大人になった今思うと、シャガールの絵に出てきそうな感じの何だか色っぽいマリオ。顔が妙に青白い。そして、ヒゲが、ヒゲが……
これも大人になってから分かったけど、ダリのようなビヨーンと伸びた怪しいヒゲだった。 ハハ、いや、誰がみても絶対マリオって分からへんやん。そんなマリオが澄ました顔でそこにいた。
「マリオちゃう。誰やねんこれ?」
わいはガックリと肩を落として落胆した。
「そうか? でも言われた通り描いたんやけどな……」
ちょっと不満そうな父ちゃんも、ガックリして肩を落とした。
「弱そうやな」
とじっちゃんが覗き込んでつぶやく。
「ちょっと、貸してみ」
とじっちゃんが言って、スケッチブックを父ちゃんから受け取った。
こうして、波乱の「第2回マリオってどんな奴や大会」が開催されることとなる。
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