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「ここはゲストルームだから、僕は自分の部屋で寝たよ」
カルテがどうなっているか気になった。
「あの郵送物は」
「まだ届いてないよ」
薫兄は私に顔を近づけると、私の額に自分の額を押し当てた。
「もう熱はないみたいだね」
今どきこんな熱の測り方をする奴がいるのかと思うが、それが薫兄なのである。
昔からいつもこうやって熱を計られていた。
ただそれは妹限定の行為だと思っていたが、誰にでもやっていたとは。
引っ越して来たばかりなのかゲストルームだけでなくリビングルームもひどく殺風景だった。
ダイニングテーブルと椅子、必要最小限の物しか置かれていない。
私は薫兄が切ってくれた果物を食べた。
家には私たちの他には誰もいないようだった。
薫兄は私を見ながらのんびりコーヒーを飲んでいる。
「あのお仕事は?」
「しばらくは作品作りに集中しようと思ってね、他の雑多な仕事は入れてないんだ」
とすると銀太郎は地元の私たちの家にいるのかも知れない。
それにここはすぐ薫兄とどすこいの愛の巣になるのだ。
弟があまり居座るわけにもいかないだろう。
「大きなザクロもあるんだよ、ザクロ好きかい? ジュースにすると美味しいんだよ」
薫兄は席を立つ。
「あの」
私はずっと引っかかっていることを思い切って聞いてみた。
「どうして私にこんなによくしてくれるんですか? 一昨日までは私のこと疑ってというか、よく思ってなかったじゃないですか」
「そのことについては君に謝らなければいけない」
すまない、と薫兄は私に頭を下げた。
「全部僕の勘違いだった。実は一昨日の夜、妹が見つかったんだよ。妹は元気にしてたよ」
「妹さんが?」
どういうことだ?
「ザクロジュース作ってくるよ」
頭が混乱した。
妹が見つかったってどういうことだ?
誰かが私のフリをしたということか?
いったい誰が?
「これを飲んだら家まで送って行くよ」
薫兄は血のように赤い液体を入れたグラスを持って戻って来た。
「あの、妹さんって」
「郵便物は届いたらちゃんと君に渡すよ。開封せずにね」
薫兄はウインクを投げてよこした。
すこぶる機嫌がよさそうだ。
私が見つかったからか?
でもそれは私じゃない。
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