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プロローグ
梅雨明けしたばかりの晴れ間、九頭龍川の上流部の淵にウェダーを履いた中年男が大きく目を見開いて沈んでいた。ルアーを用いた渓流釣りであった。
雑木林に放置されている飛騨ナンバーの高級SUV が発見され河川捜索が行われ遺体が発見されたのであった。
「身元は高山市の会社社長ですか?」
福井県警の刑事が所轄の制服警官に問いかける。
「目撃者の類いは?」
「自殺でもなく事件でもなく事故ですからねぇ? 居ませんよ」
刑事は立ち入り禁止の黄色いロープの向こうに悲しげな表情でこちらを見て佇む女性を見つけた。
「ガイシャの身内か?」
「えっ? なんです? まだ家族に連絡してませんよ」
「なら、あの女は…………いない?」
視線をもどすと女性の姿はなかった。刑事は現場を撮影して回っている鑑識と婦警を呼び止めデジタル画像をチェックする。
「写っていたはず……」
女性の姿はどこにも写っていなかった。所轄の制服警官が確認する。
「記録しますか?」
「いや、やめておこう」
遺体が運ばれていく。刑事は少し引っかかることはあるが事故で処理した方が無難だと考えた。
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