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「静かだな」
短い黒髪に、剣を持った男の言葉が城内に響き渡った。
崖にそびえ立つ禍々しく異様な空気を放つ巨大な城、魔王城。その城内には見た目とは違う品の良い真紅の絨毯が床に広がり、壁に飾られた燭台には青い炎が灯っている。そのおかげで暗い城内を淡く照らしていた。
そんな魔王城に、特殊な恰好をした男女三人が並んで最上階にある大きな扉の前に立っていた。
その三人の中の一人、杖を持った女が先ほど男の放った言葉に頷いた。
「確かに城に入ったのに敵がいなさすぎるわ。勇者。魔術師。気を抜かずに行きましょ」
「ヒーラーもな」
「僕はあなた達とは違うのでお気になさらず」
ヒーラーの意気込むその姿に、勇者は笑って答えたが、同じく呼びかけられた魔術師はくいっと嫌味そうに眼鏡をあげて答えた。
ここには魔王を倒しにやってきたのだ。
今、魔王の侵略により祖国は脅かされている。そのせいで国力は衰え、人々は死に瀕している。貧しく暮らし、身内の死体に涙するその姿を、勇者たちは魔王城を目指す旅の途中で何度も見かけたのだ。祖国が滅びる前に何としてでも魔王を倒さなければ。
しかしやっと着いた魔王城。敵に襲われない異常な状態の中、まだ嫌味な態度をとってくる魔術師に勇者は睨みつけた。
「お前なんか、赤ずきんのばあさんを喰ったっていう逃亡中の狼に喰われちまえばいいんだ」
「僕が狼なんかに負けるとでも? あなたこそぼーっとしてるとまた記憶を失いますよ」
「もうッ! こんな時ぐらい緊張感持ちなさいよ! そんなんだと魔王の前に、七人の魔王の部下にやられちゃうわよ! 国のために今日ぐらいは仲良くしなさい!」
二人の言い合いを見かねたヒーラーが声を上げて間に入って止めた。勇者と魔術師はふんっと鼻を鳴らしてそっぽ向いたが、勇者はヒーラーの言葉にこれまでの旅を思い出した。
ここにいる三人は魔王を倒すべく王に選ばれた特別な人間だ。国宝である魔法の鏡によると、勇者は魔王を倒すための特別な力があるらしい。確かに城を守るように張られた強力な結界を勇者は難なく解くことができた。何か特別なことをしたわけでもなく、歩いてるだけですんなり通れたので、そんな凄い力を持ってるように勇者自身は感じなかったのだが。今でも不思議だ。
そんな三人の旅は苦労が多かった。
仲間である魔術師とは口喧嘩ばかりし、ヒーラーに何度も止められたりと、色々あった。しかしこの魔王城まで辿り着いた今は、この仲間がいてくれてよかったと、本当にそう思える。
仲間のためにも、王のため、国のため、魔王を倒す。
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