勇者が魔王を倒す時、もう一度その唇に触れる

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「勇者様」  困惑していると、突然後ろから声を掛けられ驚いて振り向いた。そこにはそれぞれ違った色の帽子を被った七人の小人がいた。 「七人……。お前が魔王の部下か?」 「はい」  勇者は警戒し剣を向ける。しかし小人達は怯えることなく、悲壮な面持ちで勇者を見つめた。 「どうか、私たちをお助けください」 「なに?」  紫色の帽子を被った小人の言葉に勇者は眉を顰める。しかしそのまま黄色の帽子を被った小人は祈るように両の手を組んだ。 「私共は、この女にひどい扱いをされていたのです。飯がまずい、部屋が気に入らない、服が好みじゃないとわがまま放題」 「白雪姫はこの性格から妃に城を追い出されたのです」 「そして横暴を働き続けた結果、魔力も高かった彼女は魔王にまでなってしまいました」 「白雪姫は我々に服従の魔法をかけ、ずっと苦しめてきたのです」 「しかしやっと寝ているところを仮死状態にまで追いつめましたが、服従の魔法により、殺すことはできなかったのです」 「どうか、我らをお救いください」  それぞれ小人達が交互に話したその内容に、ヒーラーは震えながら棺の少女を見ていた。魔術師もそれは同じだった。 「……信じられないわ。だって、白雪姫様なのよ。綺麗で私たち民にもお優しくて……」 「ええ。しかしこの禍々しい魔力は確かに魔王の物。信憑性は十分にあります」  驚いている二人をよそに勇者は二人の反応にいまいち共感できずにいた。この少女がどれほどの善行を働いたのかは知らないが、小人の言うことが本当ならここでこの少女を殺さなければならない。  勇者は頷き、小人に向けていた剣先を棺の少女に向けた。 「仮死状態なら、このまま刺せば」 「いえ、勇者様。キスをすればいいのです」 「……はあ?」  赤色の帽子の小人の言葉に、勇者は思わず素っ頓狂な声を上げた。あまりに場に不似合いすぎるその言葉にヒーラーや魔術師も驚いたように小人を見ていた。しかし小人は素知らぬ顔で、言葉を続ける。 「魔王は不死身も同然。けれど唇から勇者様のお力を直接体に流し込めば、きっと魔王の身体はそれに耐えきれず消え去るでしょう」  何だその理屈は。勇者が呆気にとられていると、ヒーラーと魔術師はお互い確認するように目を合わせ、頷いた。 「く、国のためなら仕方ないわよね」 「そうですね。これも国を救うためです」 「……まじかよ」  背中を押すような二人の言葉に勇者は頬を引きつらせた。  勇者はちらりと棺の少女を見やる。見る限りでは寝ているだけだが、何があるかわからない。しかしもし何かあったとしても、後ろにはヒーラーも魔術師もいるのだ。いくらでも対処はできるだろう。  勇者はふうっと息をつき落ち着かせた。そして棺の前で跪き蓋を開け、もう一度中を覗き込む。やはりそこにはただの美しい少女がいて。その赤い唇に魅入られ、吸い寄せられるように自分の唇を重ねた。  その時、膨大な何かが頭の中に流れ込んできた。
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