勇者が魔王を倒す時、もう一度その唇に触れる

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「魔王様、お時間です」  声に引き戻されて、魔王は目を覚ました。玉座に座りながら眠ってしまったらしい。起こしに来た紫色の帽子の小人がじっと待っているのが目に入った。 「わかった」  魔王は返事をしながら立ち上がった。向かう先は城のバルコニー。そこから仲間たちの賑わった声が聞こえてくる。今から彼らに志気を高めるための演説をしなければならない。緊張する。うまくやれるだろうか。    バルコニーの前で立ち止まり魔王は自身の唇にそっと触れた。   「やってみせるよ、桃太郎」  魔王は決意をし顔を上げて一歩踏み出した。そこには、数百といる仲間たちが眼前と広がっている。そしてその中には、魔法の鏡の姿もあった。そこに映り込む自分の姿に、魔王は一瞬唇を嚙んだ後、そっと微笑んだ。 「真の勇者に殺された魔王! しかし冥府より蘇り、ここに復活した!! 皆の者、これぞ我らの希望だ!!」   紫色の帽子の小人が前に立ち、両手を広げ、高らかに声を上げる。  大勢の歓喜の声、鳴りやまない拍手、野太い雄叫び、そして魔王を称える声が響き渡る。  その喝采の中、魔王はいつものように不敵な笑みを浮かべながら、瞳から溢れる雫で頬を濡らしていた。
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