最後のパン屑

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"修復" 欠損前の正しい状態に戻すこと 女は「何でもあなたの思う通りにすればいいわ、そう振る舞うあなたの側にいる事が私の生き甲斐なのです」と言った。 男は「お前にはなに不自由なくたっぷりとした暮らしをさせてやる、俺には野望がある、きっと上手くいくぞ」と言った。 「それは素敵ね」女はハミングするみたいに答えた。 "快復" 正しい状態を定義し直すこと 女は「あなたが側に居てくれて、ほんの少しでも私の話を聞いてくれさえすれば、それだけでよかったのに」と思った。 男は「お前は俺が大事な時にいつも癇癪を起こす、俺の一番の障壁は間違いなくお前なんだ!」と言った。 女はヒステリーを起こす、男は街へ出て行く、草臥れ果てた中年の夫婦にこれからどんな物語が相応しいだろうか。 もし二人が17歳なら ぎこちなく手を繋いで海岸線に沈む夕日を眺める もし二人が17歳なら 川面を吹き渡る風が頬を撫でる心地よさに肩をすくめる もし二人が17歳なら 石畳に跳ね返るにわか雨をタップダンスみたいねと微笑み合う もし二人が17歳なら 控えめなピアノに耳を傾けてうっとりと見つめ合う もし二人が17歳ならささやかな幸福を分かち合えたかもしれない。 葡萄酒を煽れば少しばかりは渇きが癒える。 立て続けに二杯目を干すと仄かに胃の腑に火が灯る。 三、四杯と数える頃にはこの世のなにもかもがどうでもよくなっている。 二人は疲れていた。 草臥れて男は何杯も酒を飲み、女は雑踏を見るともなく見つめている。 皿には最後のパン屑が散っている。
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