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うつむいたタクの目から、つっと熱いものが伝い落ちた。瞬間、華奢な両腕が首にぎゅっと抱きついてきた。
ふわりとクリームシチューの香りが漂った。
食卓にはタクの好きなシャンパンが載っていた。
壁一面に貼られた思い出の写真たち。
いつのまにか増えた部屋の飾りは、特別な冬の気配をまとっていた。
キッチンの脇のカレンダー。2月21日にマルがついていた。
「あ……今日って、リラの誕生日、か?」
なんて事だ。仕事にかまけて、そんなことも忘れていた。仕事仕事で誕生日にプレゼントも用意していない恋人なんて、最悪だ。
「ごめん」
それだけを、やっと言った。
「いいの。大好きなタクを独り占めしてるってだけで、私はもう、世界一幸せなんだから」
「幸せ……?」
「そうだよ。私のヘタクソな手料理食べてさ、美味いって、笑ってくれるの。その顔見るのが、私にとっては最高のプレゼント。幸せだから」
幸せに、永遠に、幸せに。
戸田の最期の言葉を、タクは噛み締めた。そうして今ここにある、生きている、温かな命をいっぱいに抱きしめた。
〈終〉
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