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平日の午前中に公園を訪れるのは大人だけだ。夕方には子供で賑わうジャングルジムもブランコも、今はただそこにあるだけ。
唯一、古びた木のベンチに先客がいた。仔犬を連れたその人を見てリラは目を輝かせた。
「ハピネスのカナさん!」
ぶんぶんと手を振って近づくと、初め不思議そうにしていた女性の表情が華やいだ。
「あっ……こんにちは! その、いつもありがとうございます」
「こんにちは! ほら、ハピネスっていうケーキ屋さんのお姉さんだよ」
はてな顔のタクの袖をリラがつんつんと引っぱる。
「ああ、そういえば」
「わぁ可愛いわんちゃん! お散歩中ですか?」
「……それもあるんですけど、ちょっと、待ち合わせをしていて」
そうはにかむボブカットの陰で頬が赤く染まった。カナは上品なブラウスとフレアースカートを身につけていた。
「……ね、タク」
「ん……」
これはしばらくしたら、場所を変えた方が良さそうだ。目配せしつつ、二人は隣に腰掛けた。
「お二人は、確か、いつも一緒にうちのお店にいらっしゃいますよね。仲が良くって羨ましいです」
「あ、……え〜と」
どう返事をしたものやら気恥ずかしい。
「まあ、そのなんていうか、腐れ縁で。幼馴染なんです、私たち。もう兄弟みたいなものです」
「あら、幼馴染って素敵じゃないですか! 憧れます」
「や、そんな……」
リラとタクは家が近所で、幼い頃から側にいるのが当たり前だった。リラが大学生になった去年の春から晴れて恋人同士になり、今は共に暮らしている。
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