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金髪
「………21歳、ね」
予約客情報を確認しながら、過去最年少だなとひとり呟いた。
仁比勝人(ニイカツヒト)
21歳
60分コース
────────────────────
「失礼します」
ホテルの指定された部屋のドアをノックし、返事があったのを確認してから開けると、金髪の青年がソファに座っていた。
「男性専門癒しサービスの紬と申します。仁比勝人様でお間違いないでしょうか?」
「…………っス」
よろしくお願い致します、という俺の挨拶に仁比さんは短い返事で答えた。
許可をもらい、俺は間隔をあけて同じソファに座り最初に必ず行うサービスの説明を始めた。
「────大まかではありますが、以上が当サービスの説明となります。何かご質問等はございますか?」
「………このサービスって俺ぐらいの歳の奴でも結構使うんスか」
「そうですね、当サービスをご利用頂くお客様の年齢は幅広いですが20代前半の方もご利用されますよ」
俺の答えに仁比さんはどこかほっとした表情を浮かべる。若者って感じの質問だなと綺麗に染められた金色の髪を見ながら思った。
「仁比様のご要望についてこちらからもお聞きしてよろしいでしょうか?」
俺の言葉に「………っス」と頷いたものの「具体的にして欲しいことなどありますか?」とさらに質問を重ねると顔を赤くして口をモゴモゴさせた。
して欲しいことはあるが口に出すのは恥ずかしい、というのがよく伝わってきた。
仁比さんの予約情報にあった要望を思い出しながら俺は質問を変える。
「……逆にして欲しくないことはありますか?例えば抱きしめられるのが嫌、など」
俺の質問に仁比さんの肩がぴくっと震えた。そして絞り出すような声で「……別に嫌じゃないけど……」と答えた。
「頭を撫でられるのは?」
「………嫌じゃない」
「添い寝されるのは?」
「………別に……嫌じゃない……」
したければすれば、と言う仁比さんに、お答え頂きありがとうございますと伝えた。
抱きしめられたい、頭を撫でられたい、添い寝して欲しいーーー自分で言うのは恥ずかしくてもこちらからの質問にイエスノー形式で答えるだけならだいぶハードルが下がったようだった。
改めて仁比さんの要望を思い出しながら質問が外れてなくて良かった、と思った。
仁比勝人(ニイカツヒト)
【要望】めちゃくちゃに甘やかして欲しい
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「仁比様はお若いですが学生さんですか?」
いきなり添い寝しましょうだと本人にとってハードルが高そうだった為2人でベッドに腰掛けたわいない会話から始めた。
「………大学生っス」
「そうなんですね。学校でどんなことを学んでらっしゃるんですか?」
「………経済学とか」
●●大学っス、とこのあたりでは偏差値が高くて有名な大学名をあげた。
「●●大学ですか?すごい、難関大ですよね。勉強がお得意なんですね」
いや、得意っつーか……とまた口をモゴモゴさせるので俺は言い直した。
「受かるために勉強頑張ったんですね」
えらいですね。
そう言って頭を軽く撫でると仁比さんが俺のほうに顔を向けた。
信じて良いのかと探るような視線に、返事をするかわりに仁比さんの隣に座り直し人一人分空いていたお互いの距離を縮めた。
待っていたように──いや実際タイミングを待っていたんだろうが──仁比さんはきゅっと俺の服を掴み拒否されないことを確かめるとそのまま腕を俺の背中にまわした。
楽な体勢で寝転びましょうかと提案すると腕の中にすっぽりおさまった仁比さんがこくこくと頷いた。
「綺麗な髪色ですね。仁比様がご自分でやられたんですか?」
髪を撫でながら尋ねると、うん、とさっきと同じ短さでさっきよりも幼い返事が返ってきた。
すごい、とさらに髪を撫でていると「………あの」と言いづらそうに口を開いた。
「………名前………下の名前で呼んで欲しい……」
「………“勝人“様?」
「………様付けもしないで………出来たら……その……くん付けで呼んで欲しい……」
勝人くん、と呼ぶと俺の背中にまわした仁比さんの腕に力がこもった。
「勝人くん、他にもして欲しいことはありますか?」
「………もっとぎゅってして……頭なでなでして………♡」
要望に応えるととろんとした目で俺を見上げ身体を擦り寄せてきた。
最初とのギャップもありその様子が猫みたいで、可愛い、と思わず口から心の声が漏れてしまった。
「…………可愛い、の?」
仁比さんの問いに、怒るかなと一瞬ひやっとしたが
「…………嬉しい。もっと可愛いって言って……?」
と言葉が続き、ほっとしながら彼が喜ぶ言葉を繰り返した。
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ピピッピピッ
終了を知らせるアラームに驚いたのか腕の中の仁比さんの身体がビクッとはねた。
50分以上ベッドの上で抱き合ってたなと思いながら身体を起こしアラームを止めた。
仁比さんを起き上がらせくしゃくしゃになった金色の髪を軽く整えながら、ご満足頂けましたかと尋ねた。
ん、と赤い顔を背けながら短い返事が返ってくる。その言葉を聞き俺は彼に触れている手を離した。
アラームを鞄にしまい帰り支度を始めた俺は、夢の時間が終わってしまった子どものような寂しさを漂わせた彼の視線を痛いほど感じたが気づかないふりをして支度をすすめた。
あとは部屋を出るだけの状態になった俺に仁比さんが近づいてきた。
「…………あの、今日は──」
おそらく礼を言おうとしてくれていた彼を、ベッドでしていたのと同じ強さで抱きしめた。
「また甘えたくなったらいつでも呼んでくださいね、勝人くん」
彼が何か言う前に身体を離し一礼をして俺は部屋を出た。
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