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「その……いつも行ってるマッサージ店が長期休業で代わりにマッサージしてくれる場所を探してて。同性って書いてあったから頼みやすかったし」 どうして当サービスをお選びに、とこちらが聞く前に瀬戸さんはそう早口で話した。 「そうなんですね。当サービスを選んで頂きありがとうございます。今日はお仕事だったんですか?」 「ええ。会社から直に来ました。今までも仕事終わりにマッサージに行くことはよくあって」 もちろん疲れを癒しに行く健全なマッサージですよ、と力強く付け足す。 「営業のお仕事ってやっぱり1日に何件ものお客様のもとへ訪問されるんですか?」 俺の質問に瀬戸さんはそうですねと相槌を打ち営業って意外とやること多いんですよと話し始めた。 瀬戸春伊(セトハルイ) 30歳 60分コース 【要望】ハンドマッサージをして欲しい ヨレのないワイシャツにスーツ、清潔感のある髪型。眼鏡なのもあり『真面目』を絵に描いたような人だなという印象だった。 「────で、最近は部下の教育も担当するように上から言われていて。本当ストレスたまるんですよ。よく女性が言う『自分へのご褒美』ってやつがないとやってらんないっていうか」 いつも通っているマッサージ店がやってないから。 仕事でストレスがたまっているから。 自分はあくまで健全なマッサージを受けに来ただけ────。 この人はこの状況に理由が欲しいんだなと思いながら「誰にでも『自分へのご褒美』は必要ですよね」と返した。 「当サービスはお客様に癒しを提供させて頂くのが目的ですし、瀬戸様と同じようにマッサージで日々の疲れをとりたいとご希望される方も大勢いらっしゃいますよ」 俺の言葉に瀬戸さんはほっとした表情を浮かべる。 「ベッド行きますか?」 仕事終わりで疲れているならベッドで横になってもらった状態でマッサージを、という意味で言ったのだが直接的すぎたのか瀬戸さんの顔がかっと赤くなった。 「………いえ、手のマッサージをしてもらいたいだけなのでこのままソファで大丈夫です」 そう言って両手を俺の前に差し出す瀬戸さんに、失礼しましたと一言詫びを入れ「では、マッサージを始めさせて頂きますね」と言ってその手を取った。 強さを確かめつつ親指から順に指1本1本を揉んでいく。 「…………紬さんは何かマッサージの資格を持たれていたりするんですか?」 「資格という程ではないんですが昔もみほぐしの店で働いていたことがありまして」 へえ、と感心したような反応を示す瀬戸さんに「重点的にマッサージして欲しい箇所はありますか?」と尋ねた。 「え……いや、重点的って言われても手だけだし……」 特に……と目を逸らす瀬戸さんに「例えば中には指より手の平を特にマッサージをして欲しいという方もいらっしゃるのですが」と言って手の平を手相に沿うようになぞった。 「………っ………ンッ………!」 俺の指が手の平で動くたび瀬戸さんの身体が小さく震えるのがわかった。 「指の間がお好きな方もいらっしゃいます」 そう言って親指と人差し指の間をゆっくりこすると瀬戸さんの身体がさらにビクッと反応した。 「………はっ………ぁっ……!……んんっ…やっ……」 「お嫌いでしたか。失礼致しました。先程のマッサージに戻させて頂きますね」 真っ赤な顔をしマッサージをされていないほうの手で口元を必死に抑えている瀬戸さんに、いつ素直になってくれるかなと考えながらしれっとそう告げ元の指を1本ずつ揉むマッサージに動きを戻した。 必ずしも 癒し=気持ちよさを求めている わけではないことは俺も十分わかっていた。 【要望】がプレイ的なことではない人もごく僅かだがいる。 だが少なくとも今目の前にいるこの人は「健全なハンドマッサージ」に加えて「プレイ」的な願望を持っている側だろうというのは表情や仕草等から察せられた。 無理強いは出来ないが可能な限りそれに応えたいと思う。『癒しサービス紬』はそのためにある。 「………あの、さっき言ってましたよね。手の平とかをマッサージされるのが好きな人もいるって」 しばらく指を揉むマッサージを無言で続けていると、その手と俺の顔を交互にチラチラと見ながら瀬戸さんは言った。 「そうですね。マッサージ自体どこが好きかは人それぞれですし、疲れを取ったりスッキリする為のものですからそれで気持ちよくなっても何もおかしなことじゃありませんよ」 そうなんだ、と言いながら瀬戸さんの表情にはまだ迷いが見える。 あと一押しかなと思い「指のマッサージはとりあえず両方終わりましたので、よろしければハンドクリームを塗らせて頂けませんか?」と提案した。 え、と驚いた表情の瀬戸さんに鞄から新品の無香料ハンドクリームを出して見せる。 今ちょうど乾燥する時期ですし、とそれらしい理由をつけると「………じゃあ……せっかくだし……」と頷いた。 「失礼しますね。最初少し冷たいかもしれません」 そう断ってマッサージしていた時と同じように指1本ずつ順番にクリームを塗っていく。 身体がビクッとしたのはクリームの冷たさだけじゃないだろう。 「気をつけているつもりでもやっぱり手ってすぐ乾燥しちゃいますよね」 そう言いながら指の間に重点的にクリームを塗っていく。 「………んンッ……!そ……うですね………っ…」 手の平の上はくるくるとなでるように塗る。 「………ぁっ……はぁ……………気持ちい……」 クリームを馴染ませカリカリと優しく指の腹で手の平を擦る。 「…………ッ………!それ……もっとやってぇ……」 「指何本がお好きですか?」 手の平を擦る指を1本、2本、3本と増やして行くとその度に瀬戸さんの反応は大きくなる。 「………んんっ…………んぁ………!さ、3本っ……」 「教えて下さりありがとうございます」 「あぅ……こえ………がまんできなっ………!」 瀬戸さんの口の端には唾液が垂れていた。 「我慢しなくて大丈夫ですよ」 好きなだけ気持ちよくなって頂ければ、と今度は指の間を擦ると「はっ……ぁ……それも……いっぱいして……」と懇願するような目で言った。 「手の平と指の間、気持ち良いですね?」 「んっ…………きもちい……すき…………」 すっかり素直になったな、と思いながら彼の望むマッサージを時間いっぱい続けた。 ──────────────────── 「いかがでしたか?」 時間になり、ぽーっとした表情の瀬戸さんの口元を拭いながら声をかける。 「あっ……その……あの……良かった……です…………」 消え入りそうな声の瀬戸さんに「ご満足頂けて私も嬉しいです」と告げた。 「またのご予約お待ちしておりますね。次は──────瀬戸様のお好きな香りのハンドクリームでも」 そう言って恋人繋ぎのような形で瀬戸さんの片手を握り指の間をするっと一瞬撫でる。 瀬戸さんの身体がビクッと反応したのを感じた。 握り返される前に手を離し、俺は一礼して部屋を出た。
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