26人が本棚に入れています
本棚に追加
/79ページ
ツバキ君に先導されて辿り着いたのは空き教室だった。
日中は英語の授業に使われるこの特別教室は、放課後である今は誰も居ない。秘密の話をするにはうってつけだ。人の目を避けて無人の教室にこもるなんて後ろめたくて、でもそれ以上に期待で興奮してしまっていた。
「さて、本当に誰にも言わないって約束できるかい?」
念入りに近くに人の影がないことを確認したツバキ君が、扉を閉めて僕に問いかける。内心ドキドキしながら頷き返すと、ツバキ君は満足げに頷いた。
「じゃあ見せてやるよ。一回だけだからね」
そう言うと、ツバキ君は首の包帯をするするとほどき始める。
普段は絶対にほどかれることがない包帯が外れていくの姿はなんだかいけないものを見ているようで、好奇心を抑えられず喉を鳴らす。
やがて彼の首が露わになったとき、僕は思わず呼吸を止めてしまった。
ツバキ君の首をぐるりと一周するように、生々しい傷の痕がつけられていたのだ。
それはまるで、一度彼の首が切断された痕のような。
あまりの衝撃に黙り込んでいると、ツバキ君は無言で包帯を巻き直した。
あっという間に見えなくなった傷痕に、僕はようやく止めていた息を吐き出す。噂が本当であると誇示するような傷痕の存在は予想以上に刺激が強くて、心臓がバクバクしたまま治まってくれそうになかった。
なんだかすごいものを見てしまった。放心状態で心臓をなだめていると、すっかりいつも通りの姿になったツバキ君と視線がかち合う。
「どうかな、驚いた?」
興奮の醒めないまま激しく頷けば、彼はどこか嬉しそうな顔をした。
「いいか、誰にも言っちゃだめだからな。二人だけの約束だ」
そう言って、ツバキ君はほんの少しだけいたずらっぽく笑ってみせる。この一か月で、彼のそんな表情を見るのは初めてのことだった。
クールで大人びたクラスメイトが僕だけに見せた一面に、僕はなんだか違う意味でドキドキしてしまって。これは傷痕以上にすごいものを見てしまったぞ、と内心感激してしまうのだった。
最初のコメントを投稿しよう!