1・クラスメイトの秘密

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1・クラスメイトの秘密

 そのクラスメイトは変わっていて、誰も本名を呼ぶ人は居ない。  クラスの皆は彼のことを「ツバキ」というあだ名で呼ぶ。先生であってもだ。だから僕は、もうすっかり彼の本当の名前を忘れてしまった。  僕達と同い年のくせして、もう大人みたいな顔をする彼。どんなときだって首に包帯を巻いていて、それを取ったところは誰も見たことがない。  そんな、よくわからない少年だ。 「どうして皆、彼のことをツバキって呼ぶんだろ」  僕が改めて疑問を口にしたのは、彼と同じクラスになってからもうすぐ一か月が経つころだった。  クラスの人数の関係で、僕の隣の席にはツバキ君が座っている。不愛想な人なのか、席が隣同士になった当日に軽くあいさつを交わしただけで、あとはほとんど話しかけられたことがない。僕もなんとなく近寄りがたく感じてしまって、たまに必要最低限の会話をするだけだった。だから、彼の名前のことも特に気にしていなかったのに。  なんで今になって疑問に思ったのかはわからない。こんなだからよく「ホタルはいつも突然だなぁ」と呆れられる。現に、そのセリフを一番言っているだろう幼馴染はギョッとしたようだった。 「嘘だろホタル、なんでなにも知らないんだよ。隣の席になってからだいぶ経つのに」 「だって、彼とはまだちゃんと話したことがないし……」 「それでもびっくりだよ。あれ(・・)を知らないのなんてたぶんホタルくらいだぞ」 「あれ? あれってなに? ナナオはなにか知ってるの?」  僕が尋ねれば、たぶん近くに居るツバキ君に聞こえないようにだろう、ナナオは後ろめたそうに声をひそませる。 「噂があるんだよ、ブキミな噂」 「噂? どんな?」  つられてこちらも声をひそませれば、不気味で仕方ないというような歪んだ顔。 「あいつ、時々首が落ちるんだ。それこそ椿の花みたいに」  思いもよらない言葉に、僕は目を丸くするのだった。
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