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「……って聞いたんだけど、本当?」
「……君のその素直すぎるところ、結構嫌いじゃないぜ」
放課後、さっそく隣席のツバキ君に尋ねてみれば、彼は読みかけの本を閉じてクールにそう返した。
クラスで少し浮いた存在である彼の周りには、誰も寄ってくる人が居ない。皆授業から解放された高揚感ではしゃぎまわっているけれど、ツバキ君の周りだけはうまいこと迂回して通り過ぎていくのだ。
モーゼとかいうやつみたいだなと呑気に考える一方で、やっぱりあの噂のせいかな、とも思ったりする。もっとも、当の本人は周りのことなんかどうでもいいのか、避けられても気にしてなさそうだったけれど。
「そんなに僕の首が気になる?」
とってもと返せば、ツバキ君は呆れたように正直なやつだなぁと言う。
「普通は首が落ちるなんて聞いたら皆怖がるぜ」
「だって今の君はちゃんと首がくっついてるでしょ。怖くないよ」
それもそうだ、とツバキ君が少しだけ笑う。初めて笑ってるところを見て驚いていると、ツバキ君はそんな僕を置いてけぼりにして帰り支度を始めた。
さっさと荷物をまとめて立ち上がる姿に、やっぱり教えてはもらえないかぁとガッカリする。でもツバキ君は、教室を出ていく間際に立ち止まると振り返った。
「なにしてるんだ、早く来いよ。噂が本当なのか知りたいんだろ」
「えっ」
「ついてこないんなら、僕はこのまま帰るぜ」
一拍遅れてようやく言われたことを理解した僕は、慌ててツバキ君のもとに駆け寄る。
ツバキ君は僕を一瞥すると、昇降口に向かう生徒の波を器用にすり抜けていくのだった。
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