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30・煙遊び
ツバキ君のお父さんは変わり者で、めったに家に帰ってこないらしい。
家族のことをないがしろにしているわけじゃない。むしろとても愛情深い人なのだとツバキ君は言う。それでも家に帰ってこず気ままにさまよっているのは、彼がそういう性分だからなのだとか。
祖父もそうだったらしいから僕もいつかそうなるかもしれないと、ツバキ君は寂しそうに教えてくれた。
ツバキ君はそんな自由なお父さんのことが大好きで、今は恥ずかしくてできないけれど、小さいころはお父さんが帰ってくるたびに一目散に飛びついて彼をびっくりさせていたのだという。
お父さんはツバキ君の体を受け止めると、ちょっとだけ笑ってぎこちなく頭を撫でてくれる。それからツバキ君の話をたくさん聞いて、ツバキ君の気が済むまで遊んでくれる。
それから日が暮れるころ、決まってあるものを見せてくれるのだ。
お父さんはツバキ君に少し離れているように言い聞かせると、タバコを取り出してそれを美味しそうにふかす。
そして深く息を吸い込むと、口から煙をぽわんと吐き出す。それがなんと、花の形をしているのだ。
チューリップ。バラ。ガーベラ。ユリ。他にもたくさん、幼いツバキ君にもわかるような花を次々に生み出してくれるらしい。
特に可愛らしいスミレと大輪のヒマワリは見惚れるくらい綺麗で、ツバキ君はいつもお父さんの煙遊びを楽しみにしていたのだとか。
「今でも家に帰ると披露してくれるんだ。いつまでも小さい子扱いされているみたいでちょっと不満だけど、でも、それを見るとなんだか安心してしまうんだよ」
そう言って、ツバキ君は照れくさそうに唇を尖らせるのだった。
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