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私のバックアップ
その二ヶ月後、暁人は宣言通り最終選考を突破してくれた。彼は私の病室に飛んでくると、その結果を真っ先に私に知らせてくれた。
「凄いね、暁人、おめでとう。これで貴方の夢が叶うね」
「うん、ありがとう。僕はこれから宇宙飛行士訓練に入るから、暫くお見舞いには来れないけど、絶対アナを治してみせる」
「そうね、そしたら私にもおめでとうって言ってね……」
彼が満面の笑顔で頷いているのを見ながら、私は複雑な想いだった。もう私の心臓は限界を迎えていて、私はベッドから起き上がれなくなっていた。それに今の私の体力では心臓移植手術には耐えられない。
その事をまだ暁人に伝える事が出来ないでいた。だって、それを伝えたら彼が夢を諦めてしまいそうだったから。彼が宇宙へ行って、おめでとうと言う事が、私の最期の夢になっていたから。
翌日、父に連れられ十歳くらいの女の子が私の病室にやって来た。父が彼女を紹介してくれる。
「杏奈、彼女は樹里ちゃん。お前と同じ心臓移植が必要な患者だが、彼女も稀血の持ち主でドナーが見つかる見込みがないんだ。お前の次の再生心臓の実験候補者だ」
その話を聞いて私は父の意図を理解した。彼女は私が暁人の実験に間に合わない時のバックアップだ。
樹里ちゃんが笑顔で私に声を掛けてくれる。
「お姉ちゃん。私の心臓の病気、お姉ちゃんの後に治して貰えるって聞いたの。だからまずお姉ちゃんが元気になってね」
屈託のない笑顔でそう話す彼女はとても元気そうに見える。でも心臓移植しなければ、私と同じ様に命を失ってしまう。
「うん、絶対、暁人が樹里ちゃんの心臓を治してくれるわ。一緒に頑張りましょうね」
その言葉に樹里ちゃんが満面の笑顔で頷いた。
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